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「オカルト」とは
そもそも「隠されたもの」という意味のラテン語。本コーナーでは、鏡リュウジが気になる「オカルト」的なことをお題に選んで掘り下げていきます。

オカ研File No.48 おみくじのルーツ「歌占」とは?【1】
2017/1/18

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おみくじのルーツ「歌占」とは?【1】
  平野多恵×鏡リュウジ
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ちょうど1年前、天祖神社でおみくじの展示があるときいてこのオカ研でシュガーくんと一緒にお邪魔しました。伺った時にタイミングよく平野多恵先生の講座もあったので拝聴したらそれが大変興味深く面白いレクチャーでした。その内容をちゃんとご紹介したくて、オカ研で紹介させて頂く時には、平野先生に最終的にチェックをお願いしたという……。あの時はありがとうございました。
その後、担当の編集さんとご一緒する機会を作って、今回の企画がスタートしたんですよね。

*オカ研バックナンバー

歌占を引いてきました1

歌占を引いてきました2

平野
それがきっかけで、歌占(うたうら)カードができあがるとは、ほんとうにありがたいご縁です。



占いの看板を掲げているものですから、おみくじについても多少、本を読んだこともあったのですが、専門的なものも多くて。平野先生のお話は初心者にもわかりやすく、また体系的に歴史をご紹介されるものだったのでとてもありがたかったです。さらにいえば、大学の先生がおみくじを研究対象にされているということにも少し驚いたというのが正直なところでした。


平野
私もおみくじを研究していいのか、最初は少し迷っていたんですよ。当時教えていた短大の授業で古文に興味を持つきっかけにと思っておみくじを授業で取り入れたんですね。

そうするうちに、同じ学科の先生から勧められて、「恋のおみくじ」という論文を書く機会をいただきました。恋占いは万葉集の時代からありますので、それにからめて現代の恋みくじを紹介しました。それがきっかけになって『元三大師御籤本の研究』を書かれた愛知県立大学の大野出先生におみくじの共同研究に誘われました。この時に「あ、おみくじを研究してもいいんだ」って(笑)。

鏡さんがいらしてくださった天祖神社の禰宜(ねぎ)の小平さんとも、この共同研究で知り合うことができたというわけです。

調べていくと、神社のおみくじもお寺のおみくじもいくつかの系統があって、同じおみくじを用いている社寺が多いこともわかってきました。最近はその神社でしか引けない独自のおみくじも増えていますが、おみくじの伝統をふまえたオリジナルなおみくじがもっと増えればいいし、機会があればおみくじづくりにも関わってみたいと思っていたところに、天祖神社の小平さんと意気投合して出来たのが、天祖神社の歌占(うたうら)です。(*ときわ台の天祖神社ではオリジナルの歌占が引けます)


もともとは中世文学がご専門だとか。

平野
夢日記で有名な明恵(みょうえ)という鎌倉時代のお坊さんから研究を始めて、最近は仏教や日本の神様に関わりがある和歌を研究しています。その延長として、おみくじの和歌もふくめ、神仏のお告げの歌に非常に関心をもっています。歌占カードもその現代的な展開というわけです。

古典文学は難しいということで敬遠されがちですが、1,000年以上伝わってきた和歌というのは、伝わってきたなりの存在感や価値があります。そういう部分をもっと伝えたい、伝えるにはどうしたらいいのかと考えていたところに、この歌占カードのお話しを頂きました。まさに「渡りに船」ですね。研究者として占いのカードを出版するというのは冒険で、少し勇気のいることだったのですが、『歌占カード』を通じて和歌や古典に興味が出てきたという感想をいただいて励まされています。研究の世界は閉じてしまいやすいので、学術的な研究をふまえつつ古典をエンターテイメントとしてひらいていく、そんな取り組みをもっとやっていかなくてはいけないな、と今思っているところです。





和歌の始まりとはいえば、古事記や日本書紀のスサノオノミコトのあの歌からですものね。


平野
はい、八重垣の和歌ですね。



和歌と神様というのは分かちがたくて、和歌の発生の段階からゆかりが深い。和歌の世界ではスサノオが三十一文字の和歌をはじめて詠んだと伝えられています。神様は和歌を詠み、そのお告げも和歌で多く示されました。

ただ、神様のお告げは、はじめから紙に書かれたものではありませんでした。夢の中でお告げを聞いたとか、どこかから声が聞こえてきたという伝承が多いです。時代に下るにつれ、本やおみくじといった紙片にお告げの和歌が書かれるようになりましたが、本来、神様のお告げは耳で聞くものだったのだろうと思います。



まさに神託、オラクルですね。神託が歌の詩歌のかたちをとってくだされるというのは、世界的にもよくみられる現象なのでしょうか?


平野 
例えば、仏教系の漢詩のおみくじは「元三大師御籤」というのが有名ですが、これも五言四句の絶句です。中国や日本では詩歌のカタチでお告げが示されていますが、西洋ではどうなんでしょう。



古代ギリシャの神託は謎めいた言葉で伝えられてそれを翻訳する人がいたようですね。そういえばあのノストラダムスの予言も四行詩というかたちをとっていたのを思い出しました。



平野
芸能に目を向けると、神に捧げる神楽の場で唱えられる和歌には歌占を引く前に唱える呪歌と同じ歌詞のものもありますし、島根県の「隠岐の島前神楽」では、巫女が神がかりをするときに神歌を唱えます。日本では、和歌を通して人と神様はコミュニケーションする伝統があるのだと思います。


神と人とのコミュニケーションが「歌」を媒介にして行われると考えられてきたわけですね。巫女も歌を使うことで変性意識(トランス状態)に入って神を下ろすことができるし、同時に神々もそのメッセージを歌のかたちで人に伝えると考えられていたわけですね。


平野
そうだと思いますね。新宗教「大本教」の教祖・出口王仁三郎や、「天理教」の教祖・中山みきも、そのお告げや教えを和歌のカタチで残しています。だから日本では和歌のカタチというのがポイントなのかな、とは思っています。



歌のリズムによって変性意識状態に入りやすいというか、そういうのがあるんでしょうか?


平野
もともと神楽歌なども、メロディというか節(ふし)をつけて歌われます。変性意識に入る時にメロディというのは重要なんでしょうか?



だと思います。各地のシャーマニズムでも歌を歌ったり、太鼓を叩いてリズムを作ることで変性意識に入ることがよくありますよね。現代に生きる魔女も歌を歌っていますし。


平野
現代の魔女!? 現代に魔女がいるんですか?



イギリス発の一種の新宗教的運動といっていいのですが、キリスト教よりも古い自然宗教を復興しようというムーブメントがかなりの広がりをもっているんです。ロンドンには専門の魔女ショップなどもありますよ。あの「エコエコアザラク」なんて呪文も節をつけて詠唱したりします。


平野
やはり東西問わず、節を付けて唱えるのですね。


現代の魔女のテキストを見ると楽譜なんかものっています。単調なメロディを何度も繰り返したりするのが多いようです。チャントですね。こうした呪文や歌を使うことで変性意識に入って一種の神降ろしをするような方もおられるようです。


平野
現代に残っている神楽にも神がかりの名残はありますね。たとえば、岡山県備後の荒人神楽では7年に1度、いまも神がかりの託宣行事が行われています。今は実際に神がかってはいないかもしれませんが、昔は本当に神がかっていたそうです。その貴重な映像が『大系日本歴史と芸能 第8巻(修験と神楽)』に残されています。

『大系日本歴史と芸能 : 音と映像と文字による 第8巻(修験と神楽)』



おみくじのルーツである歌占も、かつてはそういうふうに巫女が神がかってお告げを和歌で伝えたと考えられているわけですね。

平野
もちろん、すべて神がかっていたかはわかりませんし、実際のところ、偽物の巫女も多かったんじゃないかと思っています。例えば、『八幡愚童訓』という鎌倉時代の説話集に、後白河院の歌占のエピソードがあって、石清水神社の巫女の託宣が本物かどうかを確かめた、という記述があるんです。



え?本物かどうかを確かめるというのはどういうことなんでしょうか?

平野
後白河院が巫女の託宣がほんとうか嘘かを疑って、それを試すために自分の手の中にあるものを当ててみろと命じたところ、巫女は「白銀の壺を並べて水を汲めば水は汲まれで富ぞ汲まるる」という歌を出しました。その歌に後白河院の手に持っていた銀の壺が見事に詠み込まれていたのにおどろいて、当たってる、これは本物だということで信仰を深めたというエピソードがあります。託宣がほんとうか嘘かを最初に疑っているわけですから、当時は偽物も多くいたのでしょうね。


つまりあまり当たらない人もいたと考えられていたわけですか?

平野
当たらないというよりも、権力者に取り入るために偽の託宣をしたとかだと思います。



そういう占いは現代でもありますね。易者さんが箱の中に入ったものが何かを占いあてることを競うという…。

平野
当たるんですか?


いやそれが、僕も現場は見たことがないからわからないんです(笑)

平野
易占が当たるという話は、鎌倉時代の説話集『宇治拾遺物語』の中にもあります。易者の名人に生活力のない娘がいました。その親は自分が死んだ後に娘がさぞかし苦労をするだろうと心配をして、死ぬ前に易占をして、10年後の何月何日にやってくる人が自分のお金を千両持ってくるから、困っていたらそのお金を使いなさいという遺言を残して死んだんです。

そして、案の定、家財も売り払って追い詰められていた10年後、親の言った通りの日に、旅人がやってきて泊めてほしいと。その時に自分は親から今日やってくる人が千両持ってきてくれると言われていると伝えたら、その人が易の名人だったんです。易の占いをしたら、親が隠したお金が家の柱の空洞に入っているとわかって助かった、という話しが残っています。

ところで、占いが当たるということについて、鏡さんにお伺いしたいと思っていたんです。これはタロットやルノルマンにも感じていますが、歌占カードは今の自分がすごく出る占いなんじゃないかなと。


いや? 絶対にそうだと思います! というのも、今日、ここに来る前にひいたカードが「ますかがみ」でしたから(笑)鏡を覗くとよく知らない老人が写っていた、という歌でしょう? ああ、自分も歳をとってしまったなあと感じていたところだったので、もう泣き笑い。でもまあ、自分の中の大人の面をしっかり自覚していくべきだなと前向きに捉えることにします。



平野
鏡さんが「ますかがみ」をひかれるとはさすが、引きが強いですね。天祖神社の歌占も「八咫の鏡(やたのかがみ)」を引かれたとか。



まあ、予言が当たるかどうかはわからないですが。占いは、英語でdivinationといいます。divine=神からのメッセージということなんですよね。具体的な予言をするということもあるけれど、それより大切なのは今の自分を知って、行動の指針を考えていくというスタンスが現代的な占いのありようではないでしょうか?


平野
では、基本的には、今のことを表すんですか?


今、どうしたらいいですか? という訊き方でしょうかね。或いは、これをすることは神様の御心に叶いますか、とか。


平野
私が長く研究対象にしている明恵も、じつはおみくじをしていました。明恵がずっとインドに行きたかったというのは有名な話で、インドでお釈迦様の遺跡巡りをしたいと思い続けて一生のうちに2回、その計画を立てています。

ところが、親類の女房に春日明神が憑いて、天竺へ行くなという託宣をしたのです。そのお告げを聞いたあと、明恵は春日社に参拝して、舎利をもらって、それを釈迦の形見だと思ってインド行きをあきらめた。それが1回目です。

でもやっぱりインド行きはあきらめきれなくて、ふたたび行こうと計画しました。でも、実際に行く相談を弟子たちとしていたら、目に見えない誰かが明恵のお腹をねじりつかんで悶絶するほどの痛みで相談ができない。そういうのが何回か続いて、これはやはり春日明神が行くなと留めているのかもしれないと思ったんですね。

それで、お釈迦様と春日明神と華厳経の善財善知識曼荼羅の前に、それぞれ「渡るべし」「渡るべからず」という二枚のくじを並べました。当時は、何か悩みがあったら自分が信仰している神仏に託して良いか悪いかを判断するくじを作っていたんです。それで明恵がそのくじを作って引いたら、お釈迦様の前に置いたくじは「渡るべし」が下に落ちて「渡るべからず」だけが残り、他もすべて「渡るべからず」だった、と。そういう話が残っています。



明恵といえば夢が有名ですが、そういうかたちでオーダーメイドでくじを作っていたわけですね。

平野
室町時代くらいから、レディメイドのおみくじが作られるようになりました。


天祖神社でやったように弓に籤がぶらさがっているんですね。


平野
謡曲「歌占」にその記述が残っています。が、実際のところはどこまでそれが広がっていたかは定かではないんです。江戸時代には謡曲「歌占」の影響をうけたおみくじが残っていますけれど。



弓を使ったのは、音がでるからでしょうか。


平野
梓弓ですね。魔除けの弓です。昭和までは梓弓を打ち鳴らして霊をおろす梓巫女が東北地方にいましたし、鳴弦といって、弓の弦を鳴らして魔除の儀式が平安時代からあります。和琴という日本古来の琴がありますが、それで神降ろしをした伝承も残っています。


ユング心理学者の秋山さとこさんが訳された、カーメン・ブラッカーの『あずさ弓』という研究書が有名ですよね。


(つづく)

ー 他コンテンツ紹介 ー

平野多恵(ひらのたえ) プロフィール

1973年富山県生まれ。東京大学大学院博士課程単位取得退学。博士(文学)。十文字学園女子大学短期大学部准教授を経て、現在、成蹊大学文学部教授。日本中世文学、おみくじや和歌占いの文化史、アクティブラーニングによる古典教育の実践を中心に研究。著書に『明恵 和歌と仏教の相克』(笠間書院、2011)、共編著に『大学生のための文学レッスン 古典編』(三省堂、2009)、『明恵上人夢記訳注』(勉誠出版、2015)など。


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