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「オカルト」とは
そもそも「隠されたもの」という意味のラテン語。本コーナーでは、鏡リュウジが気になる「オカルト」的なことをお題に選んで掘り下げていきます。

オカ研 File No.15 史上最大級の巨大彗星がやってくる 2
2013/2/19


日本に目を向けると、天文知識をもった人が現れたのはどうやら飛鳥時代なんですね。

旻(みん)という学僧が小野妹子らと一緒に遣隋使として隋へわたり、632年に戻ってきた時に、仏教はもちろんですが、易や天文学の知識を携えてきた。それで彼が飛鳥朝廷に仕えて以降、日本では彗星とか天文に関する記述が一気に増えているんです。

面白いエピソードとしては、流星が出たときに「不吉だ、旻法師、どうしたらいでしょうか」と問われ、「(あれは)流星にあらず、天狗なり」と言った。星は天の狗(いぬ)で、その吠えている声がイカヅチ(カミナリ)に似ているだけですよ、落ち着きなさいと。

地表すれすれに隕石が飛行する際、空気振動で音声を発する場合があるらしく、それを天狗といっていたらしいです。これが当時最新の天文学の知識だったんですね。

旻法師は、『史記』の天官書を学んだようで、意訳気味に引用すると、

「天狗はその有様が大流星に似ていて音を発する。地上に落ちてそこに止まるのをみると、形は狗(コイヌ)に似ている。またその落下する様は、火柱が炎々として、天をつく勢い。落下点一帯は丸くなってちょっとした田ほどの広さがある。その勢いは千里のうちにある軍を破り、大将を殺すほどである」

日本で天狗というと赤くて長い鼻のイメージや、さらに古い山伏姿の烏天狗じゃないですか。でも、もともと古代中国では隕石のイメージだったんですよね。隕石を見て、あれは星じゃなくて天狗だと言っていた。これが日本で一番古いかと思われる彗星や流星の記録で637年です。年代が定まっているのはこれが最古。

639年にも長い星が西北にみえたという記事が日本書紀にはあります。そこには、彗星なり。見ると飢える(飢えるから見てはいけない)とあります。

どうやら、天変が起こるごとに時事解説をしていたのが僧旻法師のようでした。そこには天文学に陰陽道の解釈が含まれていて、天子失う、大人物に凶あり、戦乱が起きる、大水(河水の氾濫)や、日照りが起きるといった言葉が並んでいます。

そして、鎌倉時代には、すでに流星や彗星が現れると災いが起きるという解釈がデフォルト化され、さらにそれを封じるにはどうしたらいいかということになって、朝廷が祈祷をし、幕府が徳政をするというのが、当時の上流社会では通例になっていった。

有名どころでは、「永仁の徳政令」なんかがこれに該当するみたいです。1297年に、鎌倉幕府が貧窮した御家人を救うため、借金を帳消しにする法として履行したんですが、これも彗星がでた結果、その対応策として行われた。

 
そういう彗星の解釈って、狗のように、いろんなトラディションがあるのが興味深いよね。

彗星の歴史的な解釈としてのようなものがあるかは、以前、ぼくも『占星綺想』(青土社)でエッセイとして書いています。よかったらぜひそれを見てね。


『占星綺想』(青土社)
http://www.amazon.co.jp/%E5%8D%A0%E6%98%9F%E7%B6%BA%E6%83%B3%E9%8F%A1%E3%83%AA%E3%83%A5%E3%82%A6%E3%82%B8/dp/4791763467/ref=pd_sim_b_37


彗星の文化誌、科学誌としては占星術研究者の間ではAnn Geneva "Astrology and the Popular Culture" 1995が有名。

ほかには、Sara Schechener Genuth "Comet, Popular Culture, and the Birth of Modern Cosmology" Princeton Unive.Press 1997という興味深い本があります。

彗星が近代初期科学の発展にどのようなインパクトを与えたかを学際的に論じている本なんだけど、その序論のなかで歴史的に彗星がどのように解釈されてきたかがうまく整理されているんだな。

この著者によると色、形、どの星座の横を通過するか、どの星に接近しているか、見える期間とか10種類ぐらいが彗星の解釈としては重要なファクターである、と。とくに形が重要らしい。

プリニウスは、星がフルートの形に見えたとか、剣の形とか、人の顔に見えたとかいろいろあります。

プリニウスの解釈の例をあげると、一対の笛に似ていると音楽芸術にとって凶兆だと。星座の中の目立たない位置にあると不道徳。恒星に対して等辺三角形とか直角四辺形の位置にあれば天才の出現、学問復興。こういうのが後々、絵にも表現されています。


おお、現代の占星術にも通じるような解釈ですね。


あと、ここに、ルネサンス期の本でパレっていう人が書いた「怪物についての本」があります。奇形児や異国の動物のイラストとかが載っている本なんだけど、その中には、人の顔に見える彗星なんかも紹介されています。

17世紀の著名な占星術家ウィリアム・リリーは、チャールズ1世の処刑と彗星を関連付けている。彗星は乙女座を通過していたんだけど、イギリスは地の星座と言われているからね。

リリーはプトレマイオスの解釈によっていて、何色に見えたかとか、何座を通過しているかとか。牡牛座を通過している時は、ウシだから家畜とかに災いがあるとか。その星座が支配している国に影響がある、と。

ここに僕の蔵書であるリリー著の"Englands Propheticall Merline" 1644の写真を載せますね。彗星がでたときのホロスコープ(写真2枚目)。

数字がいっぱい並んでいる3つめの写真は彗星の天文暦です。リリーは彗星が出現している期間の日数分の年数が彗星の影響力が及ぶ時間としています。

たとえば28日間彗星が見えていたら28日、影響があるというわけ。ずいぶん長くなりますが……



ちなみにこの1644年刊行のオリジナルが我が家にはあります!


すごい!


そして、ティコ・ブラーエが残したホロスコープでは、9ハウスに彗星がきたので宗教上のスキャンダルとか災いがおこると…ちょうど宗教改革の時代。


それを聞いて思い出したんですけど、個人的には彗星って天王星に近いイメージがあるんです。

稲垣足穂の「彗星問答」っていう短編に、ある博士が模型で彗星に関連した実験をするという話が出てきて、そこに「ホーキ星には何がなるかというと、普通の軌道をめぐっている星が、それに飽いたとき、また何かの情熱に燃えたとき、だしぬけに脱線してそうなる」という記述が出てくるんですが、多分それに影響受けたのかな。危険性をおびた反逆者、ないし宇宙のはぐれ者、アナーキストみたいな感じ。

 
彗星を他の惑星にひもづけるというのが伝統的な占星術の解釈にはあって、例えば彗星が赤い色をしていたら火星にひもづけるとか。彗星が途中で色を変えることもあります。

以前、今は亡き井上邦彦さん(G.ダビデさん)がハレー彗星についての占い本を出した時にご協力したことがあったんだけど…ぼくがまだ高校生のときだったな。

井上さんは彗星は海王星的だとおっしゃっていた。ぼーっと輝く姿もあるし、当時からの学説で、海王星軌道の外側にあるカイパーベルトから彗星がやってくるということもあった。

海王星的な限りない優しさ、というイメージも彗星に付与されていて、ネガティブになりがちな彗星の解釈としては面白いし、いいなあと思いました。何でも許してあげようよ、みたいなイメージかな。


そうだとすると、例えばふだん一生懸命、生き延びるため、社会的に強くあろうと頑張っているけど、そうした社会生活の中で抑圧されている弱い部分、その隠された傷が、彗星が現れたときに表に出てきて、あわよくば統合される可能性が広がる、という解釈になるんでしょうか。

社会的弱者がフォーカスされるとか、隠蔽され気がついていなかった問題が浮上してくる。関連ワードとしてはインナーチャイルドとか? 本当はあった傷に気が付こう、癒そう、みたいな気流に繋がる、と。


民衆の傷みたいなのが表に表れてくるのかな…


いずれにせよ、彗星は圏外から未知の影響をもたらすきっかけになって、それは昔で言えば統治上の凶事の予兆だったけれど、近代以降では占星術家に海王星にひもづけて解釈されたり、文学者に天王星的なイメージで書かれたりもされた訳ですね。


あと、海王星と彗星を結びつける話といえば…シャンパンが美味しくなるそうです!!

1811年にハレー彗星がきたときのシャンパンがすごくいい年だったそうで、以来、そういうジンクスがあります。コメットイヤー、彗星ヴィンテージと呼ばれるとか。コルクに彗星のシンボルが描きこまれたものもありますよね。

ワインとシャンパン好きの僕としては、飲み過ぎにはますます気をつけなくてはいけないと思い新たにいたします(笑)

(了)


ー 他コンテンツ紹介 ー

シュガー プロフィール

Sugar(シュガー)
1983年生まれ。サラリーマンを経て、占い師。現在、個人鑑定・講座・執筆活動中。
鏡リュウジとの最初の出会いは、「ユリイカ」に掲載されていたシュタイナー研究で著名な美学者・高橋巌氏へのインタビュー。この時に覚えた違和感が、占星術へハマるきっかけに。慶応大哲学科卒。男性占い師ユニットNOTFORSALEメンバー。

●特技はどこでもすぐ寝ること
●ソウルフードは中本の冷やし味噌ラーメン

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