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「オカルト」とは
そもそも「隠されたもの」という意味のラテン語。本コーナーでは、鏡リュウジが気になる「オカルト」的なことをお題に選んで掘り下げていきます。

オカ研File No.27 本当のカバラーを知ろう 2
2015/1/19

ゲスト:山本伸一先生

【山本伸一】
1979年福岡県生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科修了(2011年)。 博士(文学)。博士論文は『シャブタイ派思想における反規範主義の起源と展開』。2012年 より、日本学術振興会特別研究員。カバラーの思想と歴史を研究。論文に、「シャブタイ派思想の霊魂転生論」、『死生学研究』15号。「ハイム・ヴィタルの交霊術に見る実践と理論」、『スピリチュアリ ティーの宗教史』下巻(リトン)など。


■カバリストは、ラビとしての修行も積んでいる


【山本】
カバラーはユダヤ教の神秘主義と言われます。それだけ聞くと、ユダヤ教の本当のコアの伝統の部分から、その脇にたって何かべつのことをやっているようなイメージが自然と出てきてしまいます。しかし、それはまったく違っていて、カバリストというのは、ラビとして相当な訓練を積んだ人なんです。これは歴史を通してもそう言えます。

だから彼らは聖書は完全に暗唱しているし、へたすればタルムード(律法)も全部暗唱しているような人たちです。そういう人たちがやるものだから、絶対に聖書から離れることはないんですね。

聖書やユダヤ教の戒律、タルムード(律法)とか物語につねにもとづいています。でもそこに何かあるんじゃないかとやるわけです。だから彼らにとってテクストというのは非常に重要なんです。



グノーシスの人たちは新しい神話をどんどん作るじゃないですか。カバラーでは「光輝の書」とかありますけれど、ああいうのが無限にある感じはしないですもんね。


【山本】
だからゾーハル(光輝の書)なんかも読んでいると、常に聖書が出てきます。聖書を引用してそれがどういう意味なのか。つねに聖書の解釈です。



キリスト教グノーシスだと「トマスによる福音書」とか「マグダラのマリアによる福音書」とか、外典とか偽典というテキストがたくさんあるし、ヘルメス思想でもさまざまな文書があるし、バラ十字宣言とか、錬金術文書はたくさん生まれてきた。一方で一言一句この聖書の文字の解釈は〜ということにに集約されていくのが非常にカバラー的 なんですね。


【山本】
カバリストたちもいろんなものを書きますけれど、基本的にそれは聖書の解釈なんです。新しい物語を作るというよりは聖書の奥の奥に入り込んでいく。拡散するよりも収縮していくイメージです。



それはユダヤ人という民族的な特徴とは関係があるんですか?


【山本】
ユダヤ教が聖書にとくにこだわるというのはあるかもしれません。比較の問題かもしれませんが、たとえばキリスト教はカトリックだと 聖書のテキストはそこまで重要ではない。むしろ教会の権威だったり、システムだったり、儀式であったりとかそういうもののほうが先に出てくる。

もちろんユダヤ教でもそれは大事なんですけれども、ただユダヤ教の場合、権威というものがはっきりしない。権威はローカルなラビたちにあるから、ラビ同士で喧嘩もするし、常に危険にさらされていて移り変わりがある。そう考えると権威はあてにならない。同じユダヤ人でも西と東では全然違いますから。



ひとつのユダヤという理念はあったとしても、現実としては小さい共同体単位でサバイブしていくということが切実だった? 

【山本】
その時にどこに拠り所があるかというと、彼らの中で変わらないのは聖書なんですね。一言一句変わらないのが聖書とタルムード(律法)。



よく、情報化社会は流動的と言うけれど、考えてみたら、コピーされていく文字情報というのは基本的に不滅ですものね。生物の進化というのは遺伝子のミスコピーから生まれるわけでしょう? 進歩やイノベーションを称揚するというのは、ある意味、ミスコピー礼賛と言えるわけで。(笑)変化するのは社会のほうであって、ミスさえしなければ情報は永遠に不滅。



■ 現代に活躍するカバリスト



現代のカバリストも同じテキストを解釈し続けていて、そこに新たな解釈が出てくる余地というのはあるものなんですか?


【山本】
基本的に新しい解釈をしてはいけないということはないですけれど、基本的には学び、ですよね。カバリストだったらゾーハル(光輝の書)のことを知っておかないといけないので、そこに書いてある斬新な解釈をまずは学びます。



カバリストというのは現代で何をしているんですか?


【山本】
有名どころ では、アブラハム・イツハク・クックというラビがいました。リトアニアで生まれた人でカバラーを若い頃からやっていて、20世紀の最初にイスラエルに移住してくるんです。彼はシオニストで、ユダヤ人の民族主義とカバラーを融合させるんです。

彼は基本的に宗教倫理とイスラエルという国でのユダヤ民族の生き方を語るんですけど、要所要所にカバラーのことを入れ込んでるんです。

これは、ひとつ面白い例で、カバリストといってもつねにあちらの世界で、世俗とまったく違う世界で生きていたわけではなく、当然中世のカバリストにしても社会的な問題と直面しているわけです。中世のカバリストの場合、そういうのを見出すのは難しいんですけれど、必ず彼らが生きた社会的な現実の影響というものはあってカバラーの思想の解釈の仕方も違ってきます。

アブラハム・イツハク・クックの場合は彼の書いたものはたくさん残っていますし、我々にとってわかりやすい時代だから、そういうのは顕著に読み取れます。



彼の信奉者、フォロワーはたくさんいたんですか?


【山本】
いました。運動として成立していました。エルサレムには彼の信奉者はいまでもかなりたくさんいます。カバラーの宗教的な文献を出している有名な出版社がモサド・ハラヴ・クックといって彼の名前をつけています。



本人と直接関係あるんですか?

【山本】
彼が作った学校が元になっています。出版をやる部署もあるんです。



そこのフォロワーの人たちは現在もカバリストなんですか?


【山本】
僕も中に入ったことはないのでよくわからないですけれど、カバラーを学ぶことに抵抗がない人たちだと思います。どれだけ実践しているかはわかりませんが。



あと、実践的な側面のことを伺いたいんですけれど。ここ(『スピリチュアリティの宗教史 下』リトン2012)に寄せられた論文「ハイム・ヴィタルの交霊術に見る理論と実践」にはかなり具体的な降霊術実践の事例が書かれています。オカ研としては熱くなっちゃうところですね。正統的なユダヤ教徒たちは降霊術はしないでしょうけど、瞑想はするんですよね?


【山本】
どこからどこまでを瞑想というかはむずかしいですけれど、祈りの中で精神を集中するということをすすめるというようなところはあります。



カバリストたちは、それよりももっと先鋭的なんですか?


【山本】
彼らはテクニックをもっているんです。こうやるという手順がきちんとあります。ただ、祈りに集中するというのではなく、何かの文言を延々と唱えるとか、色に精神を集中させるとかそういうことですね。



仏教でいう阿字観みたいなものですね。


【山本】
手順とテクニックがあってそれにそって脳を切り替えるスイッチをもってるのがカバリストなんです。

有名なのはアブラハム・アブーラフィアという13世紀カバリスト。彼はゾーハル(光輝の書)と同時代の人なんですが、同じカバラーとはいえないくらいに違います。ゾーハル(光輝の書)は物語、聖書の解釈なんですが、アブラフィアは何をやったかというと、どうやったら瞑想できるかというノウハウを書いています。それにしたがってやると何かしらのステージを上がれるということです。



つまり、カバリストたちも二派にわかれしていくんですか?


【山本】
大きな分類として、そういうふうにわけることはできると思います。 僕はちょっとわからないですが、おそらくカバリストは、ある程度実践的な技術をもっていた。けれど、ゾーハル(光輝の書)を書いた人たちは物語的な聖書解釈の 書き方をして、アフーラフィア は物語とか聖書解釈をやらずに、実践的なことをいろんな人に伝えようとしたんじゃないかと思います。


現代のカバラーは、カバラーを4つに分けていたんだった。思い出しました。黄金の夜明け団のリーダーだったメイザースは「実践カバラー」「教義カバラー」「文字カバラー」「書かれざるカバラー」の4つがある、と。


■預言者カバラーとは?


【山本】
その区別とは違うんですが、アフーラフィアは、自分の教えのことを預言者カバラーといっています。預言というのは単純に未来のことを知るのではなく、聖霊が降りてきて預言状態、トランス状態になるというのを預言というのですが、そういうのをやるためのカバラーです。アブラフィア自身が、これを預言者カバラーといっているので、当時から他のカバラーとは違うという認識があったはずです




アブラフィアのなかにこそ、カバラーの実践的なノウハウを見ることが出来るということですね。でも、一体、そんなものを誰が読んでいたんでしょう。そもそも、書く必要があったのかしら。弟子たちが読んでいたんでしょうけれど。


【山本】
そうですね、弟子が読んでました。このカバリストはこういうことをやるという傾向があって、預言者カバラーの伝統というのもあります。



ずっと読み継がれる状態にあったんですか?


【山本】
そうだと思います。ただ、ゾーハル(光輝の書)は16世紀には印刷されています。イェツラーとかバヒルの書とかも印刷されています。これらは聖書の解釈とか物語だったので広まるんですが、アブラフィアのような預言者カバラーというのは、この時代に印刷されていると聞いたことがなくて、おそらくまだ写本のかたちだったと思います。

ユダヤ教の文献に関しては16世紀からかなりの数が印刷されていますけど、未だに写本のままというのも多いです。



では出回っている数からしても読める人は限られているわけですね。まあ、そうはいっても聖書もほかの膨大な文献もまるごと覚えてしまうぐらいの人たちですものねえ。底がしれない。



ところでユダヤ教ではカバラーを学ぶ学校のようなものってあるんですか? どういうふうに学ぶのでしょうか?


【山本】
ユダヤ人男性は基本的には皆、学校に行かなければなりません。イェシバーという学校があります。そこでは基本的にトーラー(律法)、聖書を勉強します。イェシバーによって傾向がいろいろと違います。そこにカバリストがいるとカバラーの勉強もすることになりコミュニティができたりします。



先生によって色があるんですね。そうした学校はどれくらい昔からあったんですか?


【山本】
おそらく紀元後1世紀。エルサレムからユダヤ人が追放され、彼らの宗教の中心だった神殿がなくなっていろいろなところに散らばってしまい、どうやって宗教的なことを勉強するかというと、神殿にいって祭儀をやることができないから、テキストで勉強することになりそうなると学校が必要となり、各地に学校ができたわけです。メシバーに良い先生がいるかいないかで勉強の度合いも変わってきます。



ラビは必ずいるけれどカバリストが必ずいるとはかぎらないわけですね。



(つづく)

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シュガー プロフィール

Sugar(シュガー)
1983年生まれ。サラリーマンを経て、占い師。現在、個人鑑定・講座・執筆活動中。
鏡リュウジとの最初の出会いは、「ユリイカ」に掲載されていたシュタイナー研究で著名な美学者・高橋巌氏へのインタビュー。この時に覚えた違和感が、占星術へハマるきっかけに。慶応大哲学科卒。男性占い師ユニットNOTFORSALEメンバー。

●特技はどこでもすぐ寝ること
●ソウルフードは中本の冷やし味噌ラーメン

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