鏡リュウジ公式サイト BETWEEN THE WORLDS

上なるモノは下なるモノのごとく、下なるモノは上なるモノのごとく。



「オカルト」とは
そもそも「隠されたもの」という意味のラテン語。本コーナーでは、鏡リュウジが気になる「オカルト」的なことをお題に選んで掘り下げていきます。

オカ研File No.27 本当のカバラーを知ろう 3
2015/1/21

ゲスト:山本伸一先生

【山本伸一】
1979年福岡県生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科修了(2011年)。 博士(文学)。博士論文は『シャブタイ派思想における反規範主義の起源と展開』。2012年 より、日本学術振興会特別研究員。カバラーの思想と歴史を研究。論文に、「シャブタイ派思想の霊魂転生論」、『死生学研究』15号。「ハイム・ヴィタルの交霊術に見る実践と理論」、『スピリチュアリ ティーの宗教史』下巻(リトン)など。




■魔術とカバラー



そろそろオカ研としての方向に戻したいんだけど…カバラーはあやしくてカバリストたちは超常的な力をもっている……こういう魔術師としてのイメージが一般の人にはあると思うんですよね。良きにつけ悪しきにつけ、それがうんと薄まると、願ったことが叶うというようなニューエイジカバラーになっていくと思いますが、ああいうイメージはどこからきたんでしょうね?


【山本】
カバリストたちが超常的な力を持っているというのは、おそらくはゾーハル(光輝の書)の時代からけっこうあると思うんです。あそこに出てくる人たちは、タルムード(律法)のラビなんですけれども、パロディなんですね。実際にはタルムード(律法)のラビでいたかどうかはわからないんですが、彼らはけっこう、いわゆる神秘家みたいなことをやったりするんです。力がある人ほど、議論している相手の何かを言い当てたりとか、そういう超能力っぽいことをやるんです。



もっと広く、キリスト教の人たちからいわせると、カバラーというよりもユダヤ教自体がすこしマージナルな存在だと排斥し悪魔的なイメージが付与されていた下地があり、その中でもカバリストというと最左翼みたいなイメージになったのかと思いますね。


【山本】
それもあるかもしれないですね。ゴーレム(ラビが儀式を行って作る人形。主人の命令で動く)とか。ゴーレムのような魔術で命を吹き込まれた人形の話は、古代から伝わっていて、12世紀の終わりごろからカバラー文献のなかでもときどき出てくるようになります。グスタフ・マイリンクの小説のもとになっているのは、16-17世紀のプラハのカバリスト、ラビ・ユダ・レーウです。19-20世紀には、この手の創作的なゴーレム伝承がはやって広く知られるようになりました。


実際、魔術的なことに誰が長けていたかというとカバリストです 。先に紹介いただいた論文でも書いたとおり、ハイム・ヴィタルという人は、相手の顔をみたら前世がわかってしまったり、お墓にいって祈っていたら霊が降りてきちゃったりしたようです。



他の人を助けたりはしないんですか? 奇跡的魔術師というと病気治療は十八番。


【山本】
人を癒やすことをするのは16世紀ぐらいからの仕事ですね。18世紀のハシディズムになると、カバラーを学んだレッベ(ハシディズムのラビ)たちが病気を治す話がたくさん出てきます。



魔術師のイメージが「賢者としての魔術師」というふうに定着してくるのが『ファウスト』の影響でルネサンスの頃なのかな。


【山本】
どこからそういうイメージが出てきたんですか?



ヨーロッパの魔術師のイメージは、魔女や呪い師的な土着的、野蛮なものと、『ファウスト』やジョン・ディーを典型とする賢者としてのイメージにぱきっとわかれていると思うんです。カバリストはその賢者としての魔術師というイメージもある一方、ユダヤ人にはられている悪魔崇拝やアンチキリストとしてのイメージもありそうです。


【山本】
おそらくその賢者としての魔術師というのが、カバリストの実像で、アンチキリストとか黒魔術を使うようなことまでは多分していませんね。



もちろん、そうですよね。そこでその強烈なイメージが付与されて一周まわってニューエイジカバラーになっていくのかな、と想像します。


【山本】
ニューエイジカバラーはまた複雑で、じつはちゃんとした伝統も入っています。ニューエイジカバラーの場合は、カバラーをしっかり学んだユダヤ人がからんでいる場合もあります。いい加減なものもたくさんありますけど。カバラーセンターとかブネイ・バルーフとかがありますが、それらを創始した人たちは実際、エルサレムでカバリストからカバラーを学びヘブライ語もできて、けっこうしっかり学んでいるんです。

ブネイ・バルーフのマイケル・ライトマンさんも、ちゃんとエルサレムで勉強している人で、そういう人が伝統的なカバラーの考え方だけではなく、ニューエイジ的なことを接合させて、人生とは何か、生きるとは何か、ということを説いています。でも彼の言葉を聞いていると、トーラーがどうだとか、ユダヤ人がどうだとかは言わなくなっていますね。



ユダヤ人以外の人にもメッセージを発しているわけですか? それは大きな違いですよね。今後それがどういう展開にいくかとなると、カバラー史においては新しい展開となるわけですね。


【山本】
いわゆる古典的なカバラー研究とはべつの分野になってきますね。カバラー研究者というのは、自分たちは古典をやってるという意識がすごく強くて、古典やってる人のプライドみたいなのがあるんですよ。そうなると新しい現象みたいなものには手を付けたがらない。実際新しいカバラー自体が、古いテキストにもとづいていないこともあるので。



こうした運動は宗教学の新しい研究テーマでもありますよね。ニューエイジ思想やペイガニズムもそうだけれど、従来のように明白な組織としてはくくれないスピリチュアリティの運動。


【山本】
組織とか権威というのが括れなくなってきたんでしょうね。



日本では、山本先生の登場で、歴史的なカバラーを知れるチャンネルがようやくできましたってことですね。実際、カバラーのイメージというのはあるわけで、それがどのように変容していくのか、その両方がようやく見られるようになりましたってことですね。


【山本】
僕自身、カバラーを広めたいわけでは全然なくて、間違ったイメージを持っている人にどうこういいつもりもないですが、ただ情報として正しいものが存在しているというのが大切なことだと思っています。

これとこれとこれがあって、自分はこれを選ぶ、というきちんとその情報から選びとっていけるもののひとつに貢献できればいいと思っています。



ユダヤ教は日本人の思考法とはそうとう異質なので、そういうものもあるなというのは横目で知っておくのは大切かと思います。東京オリンピックもあるわけで、ハラル料理を作ることの必要性も知っておくのは悪いことではないという認識は広がっているでしょう? それと同じです。

気持ちが通っていれば全部大丈夫!というような世界観が通じない世界もあるということです。自分たちとは異なる思考法がある、というのを知っておくのは必要ですね。


【山本】
それは知の営みとして重要です。知の営みは均質性を見るよりも差異を見る多様性のほうが重要ですから。日本のアカデミズムのいいところは、一見こんな何の役にも立たないようなことにもちゃんとお金を出して研究者を育ててくれるということもあります。だから、僕はカバラーそのものが大切だとはあまり思っていなくて、まず歴史的事実をはっきりさせて、現代においてそこから何が見えてくるのか、そういうことを考えたいんです。



ヨーロッパやアメリカの一般の人のカバラーへの認識というのは、我々日本人と同じようなものなんですか?


【山本】
同じです。普通の人はまったく知りません。ユダヤ人でも宗教的な人以外は知らないですし、誤解している人もいます。ただ欧米人の場合、ユダヤ教やユダヤ人は彼らにとって近いのでいろいろな意味で想像しやすい。聖書の話しもギリシャ神話も知らないのが一般的な日本人ですからね。



先生がカバラーを学ばれるご自身の体験というのはあったんですか?


【山本】
自分の実存的な問題としてカバラーは捉えられないですね。なんで学び始めたかというと、シャブタイ派(17世紀のカバラー的なメシア思想)の研究をやりたいと思ったからです。それをやる前は社会とは何かを知りたかった。社会を知るためには宗教を知らないとダメだと気づいて、宗教を理解するために何が必要かというと、宗教は思想や思弁だけではなく、人が実際、思想にもとづいて動いて社会を変えようとするときにいちばんおもしろくなる。実際の社会現象と思想の2つが揃ってないとダメというのが僕のアタマの中にあって、それで、シャブタイ派に出会ったときにコレだと思ったんです。

シャブタイ派のカバリストたちはカバラーを理論的な根幹にしながら、世界に終末が訪れたといって実際にユダヤ人の社会を変えようとした、この2つの車輪があります。これは絶対に面白いはずだと思って、カバラーを理解しようとしたんです。そういうのはひとつ自分の問題としてはあります。



今後のカバラーについても関心はあるんですか?


【山本】
あります、もちろん。しかし、カバラーをやっていると、深いなと思うのと、浅いというのがあるんですよ。いまのカバラーというのは深い感じはあまりしません。全部同じに見えてしまうんですよ。

でも中世のカバラー、カバラーだけではなく神秘思想をみていると、ああ、深いなあっというのはある。そういうのが感じられるときというのは、自分の問題ではないですけど、面白い、宗教すごいなと思うところです。



そこの感受性ですよね。実は僕はいままで感じたことがないや(笑) 占星術はやっているけれど、そこまでの「深さ」に圧倒されるということはまだないなあ…むしろ警戒しているのかもね。 


【山本】
あまりありすぎるのも良くないと思うんですけどね。



でもカバリストはまさに思考する鉱山技師のように聖書を「深める」人々ですよね。しかもその成立の地が、右手に三日月を持ち、真っ赤に彩色されたローセルの女神などが出土した女神文化の南仏やその周辺地域だったというのは、なんだかとても印象的に残りました。



今日は素人にもわかりやすくお話いただいてありがとうございました。また続きをぜひ!



(了)

ー 他コンテンツ紹介 ー

シュガー プロフィール

Sugar(シュガー)
1983年生まれ。サラリーマンを経て、占い師。現在、個人鑑定・講座・執筆活動中。
鏡リュウジとの最初の出会いは、「ユリイカ」に掲載されていたシュタイナー研究で著名な美学者・高橋巌氏へのインタビュー。この時に覚えた違和感が、占星術へハマるきっかけに。慶応大哲学科卒。男性占い師ユニットNOTFORSALEメンバー。

●特技はどこでもすぐ寝ること
●ソウルフードは中本の冷やし味噌ラーメン

鏡リュウジ占星術

鏡リュウジ占星術TOP
鏡リュウジ占星術公式スマートフォンサイト
鏡リュウジiPhoneアプリ
鏡リュウジ占星術携帯サイト


鏡リュウジ夜間飛行