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「オカルト」とは
そもそも「隠されたもの」という意味のラテン語。本コーナーでは、鏡リュウジが気になる「オカルト」的なことをお題に選んで掘り下げていきます。

オカ研File No.28 占いと神話 2
2015/3/18


「確かに占いをやっていても同じことを考えます。ある人が無意識的にやってしまっている行動のパターンも、その人が好んで見ている映画や漫画などのあらすじも、単に因果関係で結びつけるのではなく、同じ一つの神話的元型の多様な表れとして捉える。そういう意味で人は知らず知らず神話を生きているんだなって。となると、生を語る占いの構成要素というのは、神話でできていますね。

自分自身を振り返ると、僕はディオニュソスの神話が好きなんですけど……。占いとかやっていると、日常の秩序のなかに収まらないディオニュソスの狂気みたいなものに魅かれるところがあるのかな。リズ・グリーンの『神託のタロット』ではディオニュソスはフール(愚者)のカードに置き換えられているけれど、がちがちの因習的な社会秩序から解放されていくようなそんな動きに魅かれるんですよ。

そんな自分の背後にある神話が自分や運命を動かしている、という感覚は実に占い的だし、人生そのものを考えることに近いと思う。だからこそ、キャンベルやユングだけじゃなくて、あのニーチェだってフロイトだって、神話を嘘っぱちの話と軽視せずに、自分の思想の礎として真剣に取り組んだわけですよね、きっと。


とはいえ、神話へのアプローチにはさまざまなものがあるんだよね。神話がどのように生まれてきたかを、神話学の黎明期にはいろいろな人が考えた。全部、太陽の運行を寓話的に示したものだとか、過去の異人の実際にあった物語をデフォルメしたものだとか、社会階層を神話がそのまま表しているとか(デュメジル)だとか、さらには神話の意味内容はともかく、その構造と変奏に注目する構造主義だとか……。

ユングやキャンベルのアプローチは、神話が単なる作り事ではなくて、人間の普遍的な心の体験を物語や象徴によって表象していると仮定するもの。考えてみれば、占いの体系を構成している要素は、12星座もタロットも易もある種の「神話」だから、占い師がやっていることはあなたの神話はこれですよ、と紐付けてあげること。

あなたの中で火星が来ていますよ、というのはとりもなおさず、戦いの神に表されるようなエネルギーが動いていますよ、ということだし。


神話と結びつきなおす営みとしての占い、ということですね。そういえばキャンベルより先に河合隼雄先生の本を先にけっこう読んでいたので、キャンベルを読んだときに、あ、元はここにあったんだと気づきました。

ウソツキクラブの会長でもあった河合先生もよく「物語る」ということは人間の本質なんだと発言していましたが、確かに鑑定では、あなたの神話はこれですという提示をし、それに対し聞き手が「思い当たる」という形で自覚的に結びついていくということが非常に大切となります。そこでは「語り」が一定の形式性を帯びて、何らかの型や象(カタ)と関係しながら、ある種の神話的・祭式的な行事として、ハレとケ、聖と俗との間を幅ひろく往復しているのだとも言えるかも知れませんね。

一方で鑑定をやっていると、占い師はもっと時代にあわせた神話を提示してあげていくべきだなとも感じます。確かにギリシャ神話を出されても鑑定にきた人にはピンとこない。ならばスター・ウォーズでもエヴァンゲリオンでもドラえもんでもいいんですが、何らかの物語、あなた特有の神話はこういうものですよ、といった時にそれがある程度受け取りやすい形に変奏されていく必要はある。きちんと同時代的であることで普遍は受け継がれていくと。なんか老舗のイノベーションみたいですが。

でもだからこそ逆に占い師側は、そういう変奏される前のベースとしてギリシャ神話を学んでいる必要があるとすごく思うんですけど、人気がない。これってどこかで神話のおっかなさをわかっているからというか、日本人の宗教アレルギーと通底してるんでしょうか。


ギリシャ神話がどうしても多く引用される傾向にあるのは、やっぱり僕たちが西洋占星術をやってるからなんだろうなあ。別にギリシャ神話は神話の大将でもないから。ただ、ギリシャ神話は使いやすいところがある。日本神話は神道のなかで神々がまだ生きている。ゲルマン神話はネオ・オーデイズムやアサトルなんて復興しているところもあるけれど、ナショナリズムやレイシズムと直結してネオナチなどにも利用されやすいし。

一方でギリシャ神話は「エルメス」だとかブランド名にもなっているように、すでに宗教的な信仰とは切り離されているから。また神話自体は一種のリアリティがあり、それが人間の心を反映しているというのがユングやキャンベルの立場です。だけど、一方で、その神話を絶対視するといけない。日本神話が戦争に利用されたことを思い出さないとね。

神話は強烈なリアリティを持っているけれど、同時に、それを普遍的なものだと考え、規範化していくと、神話は人生を豊かにするどころか、人を縛るものになってしまうわけで……。このあたりは、キャンベルも詰めが甘いところはあるけれど、なんとか、「神話を現実の字義的な次元でとらえてはいけない」という言い方で警告はしているように思います。ユング派のジェイムズ・ヒルマンは「字義主義」(リテラリズム)を常に批判している。神話的象徴を文字通りに受け取ってはいけない、ということ。


神話は「祝い」にもなれば「呪い」にもなると……。


あ、そうそう、最近の神話学でのトレンドのひとつに世界神話学があります。人類の祖先はアフリカのララに辿れるという遺伝子をもとにした研究結果があるけれど、この遺伝子の変化プロセスを追って、すべての神話は、アフリカに辿り着くパターンと、オーストラリアに辿り着くパターンの2つあるというもの。

もう一つ脳科学と神話が結びつくことも考えられていて、子供の夢には世界中で共通して怖い動物が出てくるとか……。危険という意味では都会に暮らしていたら車のほうが怖い存在だけど、夢で怖がるのは動物らしい。だから脳の深い層に自然の中で生きていた記憶がもしかしたらあるのかもしれない、という話しです。

ユングのいう「元型」は一般的には相当胡散臭いものだと考えられているけれど、脳科学や神経科学の知見と結びつけてその妥当性を探ろうとするアプローチも今生まれているんですよね。


「ヘビはおっかない」とかそういうことが脳の認知機能に進化論的に組み込まれていることかも知れないというわけですね。そう考えていくとますます、神話というのはそれを語ろうとすると必ず時制は現在形で、「今」が一体であるところのもの、ないし「今」がそこにいわれをもつところの神的な過去について語ることになるという志向性が内在しているように思えます。

例えば「今は昔」から始まる竹取物語などの説話文学のように、今とは断絶したお話しである昔話なんかとは決定的に異なっている。ある意味で、神話の世界というのは無時間的であり、いつ何時も日常的なリアリティのふすま一枚奥に存在し、日常と地続きで連続していると言えますね。

ところで僕はさっき言った通り、ディオニュソスが好きなんですが、鏡さんはお気に入りのギリシャ神話ってありますか?


それはつまり、占い的には、あなたが生きている神話は何ですか、という問いと同じ意味になるね。うーーん、何になるんだろう。

まず、その答えの前に。人は、神話のトータリティを生きられないというのが前提にある。本当はみんなの要素が入り混じっていて、それが分化していったのが神話のイメージという考え方が基本的にあります。

アプレウスという古代ローマの風刺小説があるんだけど、最後に主人公を助ける女神イシスが自己紹介するときに「わたしはかつてあって今あってあるであろうもの。これまでわたしは千の名前をもってきた」という言い方をしています。

『千の顔を持つ英雄』はこれをもじっていると思うのだけど、つまり、すべての女神はひとつの女神、すべての神はひとつの神ということ。すべてひとつの大元があってそれが別れてきたというの。これは世界中の神秘学の思想の根幹にあるというわけです。

人間は、女神イシスのようには生きられません。たいていはある1つの生を生きます。その時に虹色に別れたどこを生きるか、どこのキャラクターを生きるか、どこのキャラクターで世界を認識しているのか、行動しているのか、というふうに捉えましょうというのが、元型派のユング心理学です。


となると、人生の流れの中のどこにいるか、とキャラクターづけの2つの要素に別れますね。


一昔まえのユング心理学では、ユング派には3つある、と言われていました。ユング原理主義みたいな古典派、人生のライフコースには共通の段階があるという発達派、そして元型派があります。元型は、発達ももちろん見るんだけど、子供の中にも老人がいるぞという見方で、それぞれの神話イメージを拾っていくというもの。ヒルマンがやっていたものですね。


ではこないだ鏡さんが翻訳された『神託のタロット』は元型派ということですね。


とはいえ、リズ・グリーンは保守的な人でもあるから、発達派的な思想はかなり強いですね。

小アルカナが象徴的です。4つのスートを紙芝居のように展開していってます。いわゆるウェイト版では意味がよくわからない絵が描かれているんだけど、この神託のタロットでは、アモールとプシケーの神話が描かれていて、ステージに別れているんです。だから今のあなたの恋愛はこのステージにいてこのパターンですよ、という解釈ができる。


段階を踏んでいるんですね。


僕が驚いたのはキャンベルがタロットのエッセイを書いていたということ。キャンベルのタロットへの理解は当時なら仕方ないという部分もあって間違いがけっこうありますが、面白かったのは、キャンベルが占ってもらってるんです。

カードをたくさん並べて彼の半生をたどりながら「けっこうそうでした」なんて発言していたりする。「いいたくない恋愛問題でしたね」とか言われてます。あと占星術もアメリカの著名な占い師に占ってもらっていたりする。


へええ、知らなかった!やっぱり感覚的にキャンベルも占いには親近感があったのかもですね。


占星術と神話でいうと80年代のベストセラーで『女はみんな女神』という本がありました。ジーン・シノダ・ボーレンという日系アメリカ人女性が書いたもので、当時の占い師はかなり影響を受けてましたね。でも残念ながら日本ではあまり売れなかったなあ……。

そういえば、伝記モノもあまり日本ではポピュラーじゃないよね。欧米の書店にいっていつも感激するのは伝記セクションが充実しているということ! これ日本ではあまり見られない。


確かにそうですね。伝記というと、エジソンとかキュリー夫人とか小学生が読むものというイメージだし、大人が読む伝記ものと言えば戦国武将モノや大河関係くらいという感じですね。孫正義とかホリエモン、ジョブズのようなIT長者の自伝や評伝は別格なようですけど。あんまり共有されてるリアル神話みたいなものがないのか、アニメーションや漫画といった2次元コンテンツに移行していってるのか……。


伝記ものを読む習慣がない、つまりは人生を物語、つまり神話として捉えてみるという発想が根づいていないのかな。だからギリシャ神話が人気ないのかもしれません。ということで、皆さん、『神託のタロット』は自分の人生を神話イメージで捉えるのにはとてもいい教材ですよ。って、最後は宣伝でごめんなさい(笑)



占星術やタロットに親しむということは、自分の人生に神話をインストールしていくということでもあるんでしょうね。あ、鏡さんの好きな神話を聞きそびれたまま! 今度、教えてくださいねっ。



『神託のタロット: ギリシアの神々が深層心理を映し出す』
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(了)

ー 他コンテンツ紹介 ー

シュガー プロフィール

Sugar(シュガー)
1983年生まれ。サラリーマンを経て、占い師。現在、個人鑑定・講座・執筆活動中。
鏡リュウジとの最初の出会いは、「ユリイカ」に掲載されていたシュタイナー研究で著名な美学者・高橋巌氏へのインタビュー。この時に覚えた違和感が、占星術へハマるきっかけに。慶応大哲学科卒。男性占い師ユニットNOTFORSALEメンバー。

●特技はどこでもすぐ寝ること
●ソウルフードは中本の冷やし味噌ラーメン

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