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「オカルト」とは
そもそも「隠されたもの」という意味のラテン語。本コーナーでは、鏡リュウジが気になる「オカルト」的なことをお題に選んで掘り下げていきます。

オカ研File No.35 魔女の秘密展1
2016/3/7


最近、展覧会づいている「オカ研」です。今日は鏡さんがスペシャルサポーターをなさってる『魔女の秘密展』に行ってきました。


大阪を皮切りに全国6箇所で回っていて、遂に東京にやってきました。この魔女の秘密展、ずいぶん前からTwitter上で開催予告がされていたんだけど、中身が最初はぜんぜん告知されていなくて…。一体どんなものなんだろうか、と何度か僕も魔女に関心ある身としてはつぶやいていたんです。当初は、なんだかコスプレみたいなものかな、なんて思っていたんだけれど…徐々に内容が出てくると、お、これは日本ではまずなかった、かなり本格的なものだということが見えてきて…。

古い時代の呪術用具から魔女裁判に用いられた拷問道具、魔女迫害のマニュアルになった「魔女への鉄槌」の原本だとか、魔女を扱った絵画作品などがかなり集められています。日本でやる以上外せない、アニメなどでの魔女文化も紹介されている幅広さ。「こんなのやるのになぜ俺に一言もないのだ?」なんて内心思いながら(笑)、何か関わらせてー!と念じていたら、思いが通じたのか、先方からお声をかけてくださって。「スペシャルサポーター」として各開催地で講演などやらせていただいたり、会場によっては特別に僕の所蔵品を展示していただいたりもしました。

じつはドイツやオーストリアではこういう展覧会が昨今、開かれるようになっているみたいです。この展覧会も2009年にドイツのプファルツ歴史博物館で開催された特別展をもとに構成されています。ドイツで開催されたときはメディアでも大きく注目を浴びて話題となった展示です。

日本での巡回展はそれをもとに作られていて…。実際、今回の展覧会の構成はわかりやすくよく出来ています。詳しくは図録をみていただきたいんですが、展示は次の4つのパートからなっています。

1 信じる
この頃は、「魔女」とは直接的な関係はなく、いわゆる民間信仰の展示物も紹介されています。魔法などの呪術信仰や超自然的で神秘的なことは、不変のものですからね。畏敬の念、畏れであるから、善と悪を問うものではないし、形態はいかなるものでもいいのです。普遍的な呪術信仰の痕跡を味わえるようなものが展示されています。中にはキリスト教と習合した護符などもあります。こうしたものはずっと生き残っていくんですよね。素朴なモグラの手のお守りなどの展示物も印象的です。

2 盲信
近世に入ってから魔女イコール害をなすもの、という概念が定式化されていきました。魔女こそが諸悪の源泉であるというふうに考えられるようになり、いわゆる魔女迫害時代の「魔女」イメージが固定されていきます。小さなところでは家畜の乳がでなくなった、というところから飢饉やペストの流行などが魔女の仕業だとされていったのです。15世紀から16世紀には知識人の書いた魔女論が印刷され流布し、ステレオタイプ化された「悪魔と結託した女」イコール魔女というイメージが急速に拡散します。今回の展示では16世紀の、魔女迫害のマニュアルともいうべき『魔女に与える鉄槌』が目を引きます。

3 裁く
魔女は噂レベルで迫害されるだけではなく、異端審問をうけ魔女裁判が制度化されていきました。最終的には自白が必要で拷問が行われていました。
今回の展覧会では拷問、処刑に用いられた身の毛もよだつような道具も数々が展示され、ひとつのハイライトとなっています。

4 想う
そんな魔女迫害の嵐も過ぎ去り、悪魔の存在が信じられなくなる18世紀以降、魔女の実在性は否定されて、アート表現としての存在となりました。現代の日本でもポップ・カルチャーとしての魔女は存在感を示しています。

このような4部構成ですが、魔女の歴史の流れをきわめてコンパクトに見ることができます。けれど、僕の視点からするともうひとつ、「現代を生きる魔女」がいるというのも、もう少しいれてほしかったなあ、と思います。図録をみると現代のウィッカ(現代魔女術)についても記述がありますけど。

僕の知るかぎり、英語圏、イギリス、アメリカ、カナダ、オーストラリアでは、ネオペイガニズム(キリスト教以前の多神教、アニミズム信仰を復興させようという活動)としてのウィッカはフェミニズム運動やエコロジー運動と重なり合うかたちで相当に広まっているんですよ。とはいえ、ドイツでは、ペイガニズムというとゲルマン民族主義として極右と結び付けられる傾向もあるから、広まりにくい土壌があるのかもしれません。わが日本では、ポップ・カルチャーとしての魔女はとても人気だけれど、魔女運動(ウィッチクラフト)は広まってないねえ。


この展覧会では、不当にも「魔女」と認定されてしまい、拷問をうけ処刑されてしまった人々が大勢いたという歴史の悲しい側面にスポットがあたっていますが、実際、薬草に詳しく、自然と調和した生き方をしていた「魔女」はいたのかどうか、というのは皆の興味があるところだと思いますが、そこらへんはいかがでしょうか?


実際には文献なんかが残りにくいところでしょう。歴史では、魔女としてレッテルを貼られ、迫害を受けたのはなんの関係もない多くの女性と一部の男性であったというほうが有力なようで、古代からの異教の残存物が魔女信仰として迫害されたという説はあまり受け入れられていないようですね。

ただ、もちろん、例外もあって、有名なところでは歴史家カルロ・ギンズブルグの『ベナンダンテイ』がすぐに思い浮かびます。大学院時代かな、この本の翻訳を読んで衝撃を受けましたよ。ずいぶん前の読書記憶なんで間違っているところもあると思うけれど、だいたい、こんな話でした。

北イタリアのフリウリ州の田舎に残っていた異端審問の記録を調査して書かれました。16世紀頃になると魔女裁判のチェックリストがマニュアル化されていましたが、その記録をみると、魔女裁判を行うとき、最初の頃は定式化されたチェックリストには当てはまらないようなことを、裁判にかけられた人は話していたみたい。しかし、その尋問が繰り返されていくうちにだんだんと「魔女」にされていってしまったようです。「型」にはまった自白が強要されていったということだね。

そこで出てきた告白の中に、祝日に合戦を行うというのがあります。この本、日本語の書名だと「ベナンダンティ」ですが、英訳タイトルは「ナイトバトルズ」。ベナンダンティというのは、「善き歩行者」という意味ですが今の言葉でいうとシャーマン。羊膜をかぶったまま生まれた赤ちゃんがベナンダンティになる資質をもっているとになっていくと記録されています。

ベナンダンティたちは収穫前に2つのグループにわかれて2種類の植物を武器にして空を飛んだりして模擬戦をやるとか。実際にそういう儀式をやっていたのか、一種、変性意識の幻覚のなかでやっていたのか、判然としないんだけど、それでどちらかが勝つと豊作、反対が勝つと凶作といったように予言に繋がっていたとか。

でも、僕たちからすると、こんな儀礼は「なんか知っている」と思わない?
日本の田舎で行われていたとしても不思議はないような気がする。年に1度、夜の時間帯に、たとえば稲穂をもつ一団とほかの植物をもつ一団が踊りながら戦いあって、その年の豊作具合を願い占うという習俗があります、といわれても驚かないような気がする。僕は学者じゃないから想像しかできないけれど、こういう素朴な豊穣儀礼が案外、近世にまでヨーロッパでも残っていたとしても当然だという気がするんだけどなあ。


まるで農作物の豊凶を占い、豊穣を祈る、神事としての相撲みたい。それこそまさに、農耕文化から発展した多神教的な世界観が根付いていたという証左ですね。

(つづく)

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シュガー プロフィール

Sugar(シュガー)
1983年生まれ。サラリーマンを経て、占い師。現在、個人鑑定・講座・執筆活動中。
鏡リュウジとの最初の出会いは、「ユリイカ」に掲載されていたシュタイナー研究で著名な美学者・高橋巌氏へのインタビュー。この時に覚えた違和感が、占星術へハマるきっかけに。慶応大哲学科卒。男性占い師ユニットNOTFORSALEメンバー。

●特技はどこでもすぐ寝ること
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