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「オカルト」とは
そもそも「隠されたもの」という意味のラテン語。本コーナーでは、鏡リュウジが気になる「オカルト」的なことをお題に選んで掘り下げていきます。

オカ研 File No.5 一番人気の星、「金星」の解釈をめぐって 1
2011/12/26



このサイトを見てくださっている方はおわかりでしょうけれど、占星術では「惑星」が主役。一般にいう「誕生星座」は出生時の太陽の星座で決められるのだけれど、このオカ研ではほかの惑星などについてもいろいろおしゃべりしていきたいと考えています。好評ならシリーズにもしたいけれど。

今回のテーマは、一番人気の星、金星です。


鏡さん、今年のアタマに出た「MISTY」のスイーツ特集の巻頭の言葉で、星とスイーツの関連で「金星」を取り上げていましたよね? スイーツはそれがなくても生きていける別腹的アイテムだし、まさに現代社会における金星の象徴といえそうです。


うん、金星は、この世界を楽しむためのものを表すというのが一般的な解釈だよね。スイーツを象徴するというのは、もちろんすごく現代的な金星の解釈なんだけど、金星の意味はじつはほとんど2000年くらい、基本的なところでいえばずっと変わっていない。

まぁこれは金星だけじゃなくて、基本的なイメージが変わっていないというのはほかの天体にもあてはまることだけれど。これは驚くべき強靭さといえるかも。もっとも、細かくは変化しているし、豊かになっているのはあるけれど。

一方で、面白いことに占星術における星座の意味に関しては、歴史的にずいぶん解釈が変わってきてるんだ。1世紀のマニリウスの「アストロノミカ」をみると、「白羊宮(牡羊座)のもとに生れた人は小心で決断力に欠く」なんていっていて、いまの解釈とは正反対。ただ、これはいわゆる「誕生星座」(太陽星座)のことかどうかはわからないけれど。

それよりなにより、今みたいに解釈内容が豊かでリッチになったのは19世紀以降で近代に入ってから。昔の文献を見ると一星座に割り当てられた記述なんて本当に貧弱だから。

ただ、金星については歴史上、そのイメージが大きく変わってきたという面も否定はできないの。占星術のルーツになった古代バビロニア時代の星の信仰では、金星は性愛と戦争の両方の女神を象徴していたんだよね。それがいつの間か、「愛」の側面にスポットが当たるようになっていった。


占星術ではよく解釈をギリシャ神話と重ねて語ったりしますが、金星は=アフロディテーで最高の美神という位置づけです。ただ古代ギリシャの前の時代、メソポタミアの流れを汲む金星の女神=イシュタルは、災厄をもたらす荒ぶる神という位置づけもありました。


ギリシャ神話、ローマ神話の時代には完全に愛情や女性性のみだよね。キリスト教が入ってきてから、新プラトン主義とかに結びつくと神への愛みたいなものも表すし、一方ではセックスを表す淫売の意味合いも持つようになった。


「情交する」は、確かギリシャ語では「アフロディザイン」。「天なるアフロディテー」「地なるアフロディテー」という表現もありますね。イデア界、見えない世界に対する魂の情熱の世界が「天」。セックスというか、五感でわかる愛の世界が「地」。


中世からルネサンスにかけての、一般的な惑星のイメージを知るには「惑星の子どもたち」と総称される図像を見るのが手っ取り早い。惑星の子供といっても、神々の子どものことじゃなくて、ある惑星の神のもとで、どんな人間の活動が行われるかが描かれているもの。ドイツなんかではとくに盛んに描かれている。たいてい、パレードの車にのった惑星の神の下で、人間がいろいろな活動をしている。

とくに金星については、トロッテン著『ルネサンスにおけるウェヌスの子どもたち』(ありな書房)という本が翻訳されているので、ぜひ、見ていただきたいのです。

金星の子どもたちの場合には、ハトに引かれた馬車(鳩車?)の下で、恋人たちが語り合い、音楽を楽しむ人々がいるのが典型的なパターン。注目すべきは、公衆浴場ですね。公衆浴場は、当時のヨーロッパでは娼婦か活動するする場所だったから性愛ともつながる。


紀元前12世紀のキプロス島にはアフロディテーを祀る神殿があって、そこで売春していたようです。我が身を捧げて売春してもらおうという娼婦が列をなしていた、という記述が残っています。

アフロディテーは恋愛を管轄していると言われていて、それはある種の矮小化にもつながりかねませんが、もともと本気出せばオリンポスの最高神ゼウスさえも抗えないほどの強力な力を持っていた。だから金星は強大な神でしたし、それ故に、やがて3世紀以降キリスト教の男権社会の中で単なる性愛のシンボルとして否定的な姿で描かれ、ずっと封印されてきたものが、ルネサンスの時に例えばボッティチェリなんかに描かれて復活していく流れがありますね。


ボッティチェリなどでも十分にお上品だけどねえ。そう、アフロディテー的な身体性やエロスを矮小化というか精神化していく流れは確かにあったわけだけれど。肉体性、精神性における愛は占星術は金星の二つの支配星座である牡牛座と天秤座に通じる。

占星術上の金星は、物事に引かれていく力、愛でたり味わったりする力、地上的な世界を表す。金星は牡牛座の支配星だから「味わう」。同時に天秤座の支配星でもあるから「愛でる」、「観賞する」。


「春のヴィーナス」「秋のヴィーナス」という言い方もできます。春は、生きることと直結するもの、秋は愛でるとか美とかそういうものを象徴する。


そうだね、そういった意味づけは、2000年位変わっっていない。でもなぜ戦いの女神じゃなくなったかは、わからない。戦いは一方的に男のものだと考えられたのかなあ。マヤでも金星が戦争の神だったんだよね?


金星は、蛇ともつながりをいわれてますよね。メキシコ辺りでは、金星を「蛇雲」といったりもするそうです。蛇ってアダムとイヴの追放じゃないけど、智恵と洞察力の追求を表しますが、それは人間の文明衝動につながってくる。文明衝動とは、自然の中に都市を築き区画整理して秩序立てていくことだけど、それはつまり戦争で相手を征服していくことに通じると思うんです。雅歌にもここに、「曙のように姿をあらわすおとめは誰か。/満月のように美しく、太陽のように輝き/旗を掲げた軍勢のように恐ろしい。」(6章10節)という語句がありますけど、これも金星に連なる女神の表象をよく表していますよね。


なんといっても、愛は戦いとセットってことだね!


魅力に対する代価としてのお金っていうイメージもありますね。自分のパワーを表示するメーターとしてのお金。プレゼントとしてのお金。メロメロにした分だけお金が払われる感じですかね。1対1の関係性があった上での贈与というか。

あと鑑定のときは、金星は火星とセットで異性関係というより、愛着傾向をみてます。どういうふうにこの人がトリガーを引かれ、やがて心地よさを感じるかとか、どんな癖を持って愛着をもったり離反したりするのかとかを組み合わせでみる。


お金にかんしてはいろいろ占星術シンボルで考えることはあるよね。それはまた今度のテーマ。基本にもどって、17世紀の占星術家ウィリアム・リリーの本によると、「金星は女性的な惑星で、夜の惑星、小さなの幸運、風と水、粘液基質、…金星は静かで、争いなどにはくみせず、心地良く素敵な魅力的な人間を表わす…」(大意)などといった記述が続いている。


金星と同一視されるアフロディテーはヘーパイストスという夫がいるのに、荒ぶる軍神アレスと情交して3人の子供を生みます。娘はハルモニアという調和の女神、双子の息子はポボスとデイモス、つまり恐怖と恐慌という意味の名前をもつ神です。この二面性が金星から産み落とされているのはとても面白い。でもそもそも最高の美神にも関わらず、醜い不具の神を夫に据えられているという運命自体が非常に示唆的ですよね。そりゃ浮気するわっていう(笑)

まあ、その解釈はいろいろできると思いますが、いずれにしても、金星の背後のイメージは単なるお上品なものではないということ。

(つづく)

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シュガー プロフィール

Sugar(シュガー)
1983年生まれ。サラリーマンを経て、占い師。現在、個人鑑定・講座・執筆活動中。
鏡リュウジとの最初の出会いは、「ユリイカ」に掲載されていたシュタイナー研究で著名な美学者・高橋巌氏へのインタビュー。この時に覚えた違和感が、占星術へハマるきっかけに。慶応大哲学科卒。男性占い師ユニットNOTFORSALEメンバー。

●特技はどこでもすぐ寝ること
●ソウルフードは中本の冷やし味噌ラーメン

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