鏡リュウジ公式サイト BETWEEN THE WORLDS

上なるモノは下なるモノのごとく、下なるモノは上なるモノのごとく。



「オカルト」とは
そもそも「隠されたもの」という意味のラテン語。本コーナーでは、鏡リュウジが気になる「オカルト」的なことをお題に選んで掘り下げていきます。

オカ研File No.46 『怖い女』著者沖田瑞穂さんをお迎えして 1
2018/5/10

-----------------------------------------
『怖い女』著者沖田瑞穂さんをお迎えして【1】
   沖田瑞穂×鏡リュウジ
-----------------------------------------


今日は『怖い女』を刊行された神話学がご専門の沖田瑞穂さんをお迎えしました。「口裂け女」などいわゆる都市伝説や現代のホラー作品のキャラクターから世界各国の神話の中に登場する女神など、「怖い女」を幅広く渉猟、比較し、そこから恐るべき母性というべきものを浮かび上がらせる、とても興味深い作品を刊行され、僕もたいへん興味をかきたてられました。あちこちで書評にもとりあげられ、ちょっとした話題になっていますね。

沖田先生は、子供の時から神話やファンタジーの世界がお好きで、この世界にはおられたんですか?

沖田
中学のときに私の師匠の吉田敦彦、松村一男両先生の『神話学とは何か』を読んで、こういう本を書きたいと思ったのが最初です。


ああ!!それ僕も学生時代に何度も読みました。大好きな本です。神話にたいしてのさまざまな学説をわかりやすく解説する名著ですよね。

沖田
大学院で吉田先生のもとに行きましたら、私はもともとインドのことを勉強していたので「あなたはマハーバーラタをやりなさい」と言われました。


う、うわ、それはそれは長大なテーマですね。僕が院生だったら、目がくらみそう…。

沖田
そうなんです、長いんです。「マハーバーラタ」には、日本語訳も全部ありませんし。わたしのサンスクリットの先生でもある上村勝彦先生がマハーバーラタの原典訳を出され始めて8巻迄出たところで亡くなられてしまったので、未完のままなんです。それもあってマハーバーラタは呪われているなんて言われてます。外国人が訳そうとすると早死すると言われてるんです。


うわ、それ自体が都市伝説!いわゆる「オカルト」的な世界では、アレイスター・クロウリーという魔術師が霊的存在から受け取ったという奇怪なテキストがあります。『法の書』。これを多言語に訳すると、災厄が起こる、なんて妙なプロモーションめいた噂がたったことがあります。もっとも実際は、翻訳版はあちこちで出ているんですけどね。

沖田
上村先生ご自身が「呪われて死ぬと言われてるけど、僕は死なないから大丈夫だ」とおっしゃっていたのに亡くなられてしまわれたんです。


呪いというよりも、それはきっと、これだけ長大ですし、難しいものでしょうし、心身をすり減らすようなよほど過酷なお仕事ということなんじゃないでしょうか。

沖田
「この種の仕事は寿命を縮めるかもしれない」と上村先生自ら、一巻のあとがきに書かれてもいます。


「マハーバーラタ」を研究されていてご興味が「女神」になっていかれた具体的なきっかけはありますか?もちろん、インド神話では多くの女神が活躍することは聞き及んではおりますが……。

沖田
『世界女神大事典』の編者にいれて頂いたことです。もともとこの事典では、松村先生の発案で古典の女神だけではなく、近現代の女神的な存在にもふれたいということで、いろんな試みをしたんですね。そこで、私が、恐ろしい女神の現代版として、ホラー作品や現実の怖い女性にもふれたいという提案をしたんですが、事典の中にはいれにくいということになりました……。

そうしたら、同じ担当編集者の方がこの話しを引き取って企画として進めてくださいました。


確かに、「事典」は長く使われていくものですから、あまりコンテンポラリーな内容だと収録しにくいかもしれませんね。紙幅の問題もあるでしょうし。そしてインドの中の女神というとやはり特筆すべきものがある、と。

沖田
インドは女神信仰がすごく盛んなんですね。さまざまな女神が活躍します。



これがデーミーマーハートミヤという文献です。女神のいさおしという意味です。

こちらは戦いの女神カーリーで、『怖い女』にもいれてもらったんです。こっちはカーリーの産みの親であり戦いの女神でもあるドゥルガーです。男の神様の光から生まれた女神で、輝く美しい女神なんだけれども戦う女神なんですね。


ギリシャにも弓矢が得意なアルテミスや甲冑を身につけたアテナはいるけれど、ここまで攻撃性のある戦闘女神がすぐに思い浮かばないですね。アマゾネスはいるけれど、こちらは属性としては一応、人間ですしね…。

インドなんて徹底的に現実社会では女性の地位は低いのに、神話の世界では女神が戦うんですね。現実との解離がすごくあります。神話を扱うとき、ここはすごく大事。その文化の神話表象と実際の社会の現実をごっちゃにすると大変ですね。

沖田
カーリーは、敵の将軍から求婚されるんですけど、それなら戦ってわたしを負かしてそれで私を妻にしなさない、と。自分を負かすことができないなら私は誰の妻にもならない、と。


現代だったら、私と結婚したいなら私より稼げってことかなあ(笑)

沖田
カーリーは、みんなを呑みこんでしまうので、まさに呑みこむ女なんですよ。


手のひらに載せて転がす、どころではない。自分の中に呑みこんでしまう。とすると、強大な母性を感じますね。母性の象徴は子宮でもあるからその中にすでに独立している存在を呑みこんでお腹の中に引き戻してしまう…英雄を呑みこもうとするドラゴンはユング心理学ではグレートマザーの否定的な面と解釈するのが定番ですよね。

ご著書を拝読して、その中では深層心理学や精神分析の解釈フレームが多く使われているように感じて、僕には馴染み深いものに思われたのではありますが……。今の神話学では、そうした象徴解釈の方法論の位置づけはどのようになっているんですか? 

沖田
ユング心理学の強い影響を受けた神話学者としてはジョセフ・キャンベルが有名ですが、その後をついでいるような研究はあまりされていません。ただ、神話学としては、さまざまな分析方法を尊重するというのが一応建前になっていますから多様です。ほかにはインド・ヨーロッパ語族の三分類、レヴィ=ストロース的な構造分析とかもありますし、あとは、最近すごく流行り始めているのは遺伝子的なヴィッツェルの世界神話学ですね。

私も参加している神話学研究会があるんですが、ヴィッツェル説、ベリョーツキンの説、これは世界中の話型を調べてネット上で公開しているんですが、いきつくところはヴィッツェル説と同じで、アフリカから出てきたものですね。

今そのようなのは流行しつつあるんですが、同時に危険性もある、人間の分岐と話しの分岐を同一に論じられるのはどうかな、とも言われています。


「世界神話学」には僕も数年前から関心をもっていたんです。最近、新書で入門が出てありがたい。これはワクワクする説です。ただ、「噂千里を走る」ということが言われるくらいですから、神話素の伝播と人々の移動をそのまま重ねることだけは危険かもしれませんね。

沖田
まさにそうなんです。人類の分岐まで遡らなくても神話の伝播はされていたというのがわかっていますので、そこらへんは慎重にやるべきという意見があります。


話しの伝播の道筋を追いかけることが人間の実際の移動と重ね合わせなくてもいいわけですよね。そっちを基準に人類の移動を、グレートジャーニーをたどることをしなければ、話型そのものがどのように分岐していったかという情報だけの移動、をトレースするというのは方法論としてあり得るということですよね? これは僕、久しぶりに衝撃をうけた方法論です。

沖田
神話学の歴史というのは、いつも、ある説が世界中を魅了して、みんなその説に従っていろんな解釈をするけれども、その説を提唱した人が、死んでしまったりするとあっという間に消えてなくなったりします。


神話学の方法論自体が一種の神話だと言えるのではないでしょうか。その時代にフィットした話が浮上して、また沈み、ときに新しいかたちで再生する。新しい神話はそうやって生み出されていくのかもしれません。いずれにしても、神話学を傍から眺めていると、まるで方法論としての道具箱みたいで、本当に面白いんですよね。

沖田
確立された方法論がないということで、神話学がいつまでもちゃんとした学問として認められていないというのもあるんですね。神話学と文化人類学は学問として兄弟なんですけれども、文化人類学は各大学に講座があるんですが……。

今回の本も、ユングとかユング派のノイマンだけで解釈してしまうのは頼りないという批判もありました。

人間の心理が時代も場所も問わずに共通のものがあって同じものを生み出す、ということは、私はあると思っています。そういう確信のもとでこの本を書きました。

(つづく)


『怖い女』著者沖田瑞穂さんをお迎えして 2

ー 他コンテンツ紹介 ー

沖田瑞穂(おきた みずほ) プロフィール

沖田瑞穂(おきた みずほ)
1977年生まれ。学習院大学大学院人文科学研究科日本語日本文学専攻博士後期課程修了。博士(日本語日本文学)。中央大学、日本女子大学、等非常勤講師。専攻はインド神話、比較神話。

『怖い女』沖田瑞穂著
http://amzn.asia/d1S3olD
鏡リュウジ占星術

鏡リュウジ占星術TOP
鏡リュウジ占星術公式スマートフォンサイト
鏡リュウジiPhoneアプリ
鏡リュウジ占星術携帯サイト


鏡リュウジ夜間飛行