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「鏡の視点」とは
鏡リュウジが何を感じ、何を思考しているか。気楽なものからレクチャー的要素もからめた雑文コーナー。海外のアカデミズムの世界で占星術を扱う論文などの紹介も積極的にしていく予定です。

心理学的ホラリー(サイコロジカル・ホラリー)
2017/8/23


占星術といっても1枚岩ではありません。ホロスコープの計算は同じ方法をとっていてもその解釈の方法は人によってさまざま。
いろいろなアプローチがあります。そのアプローチは、大きくいうと「現代占星術」と「伝統的占星術」の二つに分類することができそうです。

実は西洋占星術は17世紀半ばに一度かなり下火になったことがありました。そこで歴史的な連続性が一度、断ち切られているのです。

占星術は19世紀末に復興します。
この時、現代的なホロスコープの解釈方法が新しく「発明」されたといってもよく、その後、占星術にはずいぶん心理学的な要素がとりいれられるようになりました。
1985年以降、17世紀の占星術が「再発見」され、古い時代のより具体的な占星術の判断方法を取り入れる向きが増えてきたのです。
とくに注目が集まったのは、占いたいと思った瞬間の星の配置で具体的な判断を下す「ホラリー」占星術でした。

これは現代占星術の主流である出生図の占星術とはずいぶん趣が異なっています。この伝統占星術ないし古典占星術の復興期のときには、現代占星術と古典占星術の陣営は互いを批判しあっていたりもしました。

しかし、この二つは本来対立すべきものではないとマギー・ハイドさんはいいます。マギー・ハイドさんは『ユングと占星術』という本の著者でもあるので、現代的な心理占星術派の人だと考えられがちですが、実際にはそうではないのです。心理学にも精通しておられますが、一方で伝統的占星術復興者の一人でもあります。そしてその二つを架橋するような仕事をしておられるのです。

今回、マギーさんのご好意で訳出することをお許しいただいたこの論文はそのことを端的に示すもの。現場の占星術で「心理学的ホラリー」と呼ぶべきものが行われることを興味深い実例をもって示されています。占星術学習者の方はぜひ、こちらを読んでみてください。

(鏡リュウジ記)

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心理学的ホラリー(サイコロジカル・ホラリー)
文:マギー・ハイド 訳:鏡リュウジ


(この論文の初出は英国占星術協会1993年11月/12月号 Vol35,No.6 著者マギー・ハイド氏の許可を得て訳出)

現在、山羊座で起こっている天王星と海王星の会合は伝統的占星術の再考を促してるように見える。伝統的占星術の見直しはそれに先立って1984年から88年にかけての天王星と海王星の山羊座へのイングレス以来、起こってきているものである。ただ、どんなものであれ、新たな気づきや大きな発見があるところには、理想主義やそれにともなう分裂、対立が伴うもので、現在の会合は20世紀の占星術のひとつの隠された過ちを明るみに出そうとしているようにも見える。

これはアラン・レオによる現代占星術の復興、ディーン・ルディアの業績によって発展した、心理占星術と伝統的占星術の分裂である。
そのいきさつについては私もすでに論じたことがあるし、またパトリック・カリーも同じ分裂について論じている。(注1)


本論は、「心理学的ホラリー」の概念を導入することによって、この分断を焦点化することにある。
一見すると、心理学的ホラリーとは矛盾した用語に思えるかもしれないが、そう感じられるのは心理学的占星術家と伝統主義者が互いの営みを誤解していることに起因する。

そのことを本論で明らかにできればよいと私は望んでいる。現在、伝統主義のホラリーの実践者たちは現代的な心理占星術家批判の尖兵となっている。
彼らにしてみると心理占星術はナルシステックで放逸、また曖昧にすぎるということになる。

一方、ホラリーについての実践的な知識のない占星術家にとっては、伝統占星術はバカバカしいほど些細なことにこだわり、また魂に関することに関して「意味の深み」を欠いているように映る。

ホラリーに関する文献は幼稚で悲愴的に見える上、取るに足らないようなこと、あるいは唯物論的なことについてばかり、宿命論的な判断を下しているように見えるのである。
学会誌でもしばしばみられるように、実例として示される伝統的ホラリーはそのシンボリズムの面であまり説得的でない場合も多く、ホラリー占星術全体の価値が、こうした「伝統」の名のもとに行われる脆弱な解釈によって貶められているのである。我々をそのシンボリズムで感じいらせ、何がしかの重要性を明らかにする本質的なホラリーというのは、実はまれな現象なのだ。


私としては、ホラリーを心理占星術とともに並列して扱ってみたいと考える。私見ではその二つの間には本質的な相違はないからだ。この二つは相互補完的であるという以上に、すぐれた占星術的実践を行うためにはどうしても二つともが必要になる時さえあるのである。この点については以下のケースをご紹介した上でさらに詳しくご説明しよう。この例はこの論争について重要ないくつものポイントを明らかにすることになるだろう。

状況

このホラリーの判断を求めてきたクライアントの方は1992年春に、ある催し物で短い出生ホロスコープ解読をしたことのある女性であった。
その前回のリーディングのとき、驚かされたのはその時点で主要なトランジットが何もなかったことであった。催し物でリーディングを受ける人は、たいていの場合、重要なトランジットがあってリーディングの焦点を示すことになる。

主要トランジットがないというのは異例のことなのだ。もっとも近い将来にやってくる主要なトランジットは1993年秋の3度目のジュピターリターンであった。私は、以前、出生時の双子座の太陽にトランジットの天王星が180度になったときに(1985年12月)何があったかたずねてみた。すると、彼女は突然、泣き出してしまったのだ。私にも彼女にもその理由がわからなかった。

表面的にはそのときは彼女にとってよい時期だったのだ。そのときに起こった重要な出来事といえば、彼女が故郷の国を離れ外国に移住したこと、そして、ここイングランドで成功を勝ち得たことであった。

彼女がコンサルテーションに訪ねてきたときには、すべての重要なプログレッションは木星が絡んでいた。私たちは、現在のライフスタイルでの不満について話あった。彼女が言うには、彼女は磐石で、よい収入のある、そしてステイタスの高い仕事についているし、気に入ったエリアの、気に入った部屋(フラット)に住んでいるにも関わらず、幸福を感じてはいなかったのである。

彼女はそのとき、1年かそこら交際した男性と別れたところで、パートナーはいなかった。彼女には数年の間、親しい友人もおらず、彼女の母親は彼女に母国に帰ってくるよう、気持ちの上でプレッシャーをかけていた。しかし、よい仕事やよい住処を捨て、母国で無職のホームレスになる、というのは論外に思えた。母国には、彼女を支えてくれそうな親戚筋はあったが、友人はいなかったのだ。

チャート

伝統的なホラリーの技法では、相談者は上昇する蠍座とその支配星である火星によって象徴されることになる。火星は牡牛座にあって下降点と合。牡牛座では火星はデトリメントとなっているが、これは今の、よくない状況にある相談者をよく表しているとも。

デトリメントにある惑星は伝統的なルールでは故郷を離れた放浪している人を示すが、これも相談者の状況を示していると言えるだろう。またこれは八方塞がりの状況を表すともいえる。相談者は動きたいわけだが(火星)経済的な理由と、今の居心地の良さのために(ともに牡牛座が)それができないのだ。火星は地平線に没しよう(セット)としている。相談者もまた人生の中で「据え付けられて固定されている」(セット)。おそらく下降点は満足できないパートナーシップを表してもいるのだろう。


相談内容、つまり家の購入希望は、他者を意味する第7ハウスからくるものだ。購入希望者は女性であり、牡牛座の支配星である金星が象徴する。金星は家を意味する蟹座にあり、また相談者の抵当を意味する第8ハウスにある。このチャートは知る限りの中で相談者、そして質問内容をよく表しているので有効(ラディカル)だと言える。両者の指示星として金星と火星を見ると、金星は火星にセクステルの角度を作ろうとしていることがわかる。伝統的なルールでは、この購入申し出はうけるべきであるし、あるいは、結果として受諾することになるだろうということをしめしていることになる。

そのほかに考慮すべきことはあるだろうか。不動産そのものは土星によって象徴される。それは第4ハウスの支配星で高い品位をもち(自分の支配する水瓶座にある)、ICに合である。この土星は素晴らしいコンディションにある。彼女の巌であり錨ともなっている。

しかし火星や金星とはダイレクトなつながりはない。これは少し意外なことだ。しかし、このフラット(部屋)である土星はミューチュアルレセプションとなっている天王星とつながりがある。これは極めて重要だ。というのも第4ハウスにある月は天王星と60度に接近しつつあるからである。

これらの天体は普遍的ルーラーとしても個別的ルーラー、家(4ハウスの月、4ハウスのルーラーである天王星)にまつわる大変化(天王星)を意味する。これは相談者がこの申し出を受諾することで、この女性が自分の縛りから抜け出せることを示している。天王星はICの土星の縛りを解放する力をもっているからだ。

また、海外の事項を示す月は流動的で適応力のある魚座にある。これは娘を故郷の国に呼び戻したいという母親の感情的な呼びかけ(第4ハウスの魚座の月)を示している。9ハウスと4ハウスの関連は、故郷に帰るためには(4ハウス月)海外にでなければならない事(9ハウス蟹座)を示している。

牡牛座の火星が示すところでは彼女は動けないが、しかし、魚座の月として見ると彼女は動けるのである。世間的な常識での判断がどう言おうと、チャートはこの申し出を受け入れることは相談者にとってのメリットになると示している。

第2ハウスの支配星である木星はデトリメントであるが、この際、経済的な面は問題ではない。彼女はよい値段での申し出を受けているのであり、地の星座での火星と木星のトライン(相談者と金銭)は金銭トラブルはないであろうことを示している。

私はこの申し出を受け入れるべきだと判断し、その旨を伝えた。彼女はその意見を考慮するといった。しかし、牡牛座の火星の表すごとく、彼女は何もしなかった。買い手は引き下がり、不動産をほかで探すことにした。この女性はその”フラット”でいたままだったのだ。私の伝統的ホラリーメソッドの理解ではそこまでである!



いったい、何が起こったというのだろうか。理解すべきキーになるのは、ホラリーでいう「パーフェクション」という概念である。シグニフィケーター同士がアプライするとき、これは相談者が申し出を受け入れる「べき」と読むべきなのか、あるいは受け入れるで「あろう」と読むべきなのか。多くのホラリー占星術家はもしシグニフィケーター同士がメジャーアスペクトを形成するなら、相談者と相談事項は運命づけられているかのように、相談者の行動は関係なく不可避的に何かが起こるのだと読むようだ。

しかし、これは伝統的ホラリーの理解としては十分ではない。そしてこのような宿命論的な予言への欲望こそ、ホラリーの評判を落としているのである。「どんな事が起こるか」にたいして単純な「イエスか否か」といった判断をしたのであれば、占星術家はただ機械的にルールに基づいた判断をするだけの、客観的な立ち位置に立つことになってしまう。

そんな、客観的なルールに基づいたイエスかノーかの、50パーセント50パーセントの予言をするだけで、意志や人間の魂や欲望といったものを考慮にいれないというのなら、そんなものがいったい何になるというのだ。私にしてみれば相談者が申し出を「受け入れるであろう」「受け入れないであろう」という判断を伝えるだけなら、それは何の意味もないと思う。

そのような判断や情報はまったく”フラット”である。というのも、一部の伝統派の人々の意見とは違って、ホラリーのメソッドは惑星の動きに基づいて未来についての情報を伝えるだけ、という客観的でストレートなかたちでは有効ではないからである。

有効なホラリーのチャートは私たちが今動いている方向を示すものではあるが、もっとも重要な鍵は相談者がどんな行動を次にとるかにかかっている。

もし相談者が何の行動もせず、チャートのシンボリズムを活かそうとしないなら、惑星の天文学的な動きは何も「成し遂げない」(パーフェクト)しない。パーフェクションという言葉はラテン語のfacereから来ていて、これはものごとを「起こす」(make)というのが原義なのである。しかし、これを「起こす」のは誰なのか。ものごとを「完遂」(パーフェクト)させるのは相談者であって、相談者がものごとを起こすことによってしか、惑星は「パーフェクト」しないのである
 
何が起こるであろうか、あるいは起こらないであろうか、また何をすべきかすべきでないかといったことなどを、相談者が結果に影響を与えるような行動を促すことを抜きにしての判断は意味がないという理由がここにある。
さらにいえば占星術の結果が何を指しているのかを見通す技術と、相談者の状況を変えてゆく解決法を出すということは別のことでもある。
このことは「判断」judgementと解決resolutionの重要な区別という問題を提起することになる。リリーは『クリスチャンアストロロジー』において学徒にこのように告げている。

 あらゆる質問にたいしての判断ないし解決は、人間によるものである。(注2)

この二つは必ずしも同じことではない。ホラリーにおいては、占星術師はプロとしての判断の意見を与えるだけを求められることも多い。たとえばあるとき、私は一人の男性からある船を買うべきかどうかを尋ねられたことがある。私には船舶についての知識は全くない。

ただ、月が蠍座、ICの上にあって冥王星にアプライしているのを見て、私にはこの船を買うのはよいこととは思えなかった。ありていにいえば、この船には底に穴があるのではないか(蠍座の月、IC,冥王星)と”判断“し、この船は買うべきではないと助言したのだった。

この相談者は船舶についての知識もあったので、陸で船の検査をすることにした。すると、船底にかすかな、ほとんど目にはつかない穴(ないし穴になりそうなもの)が見つかり、その値には見合わないことがわかったのだった。
このような場合には私はただチャートを判断し、意見を述べるのみである。この意見によって、相談者は自分の動くべき方向がわかり、そして船についての悩みを解決したのだった。

しかし、多くのホラリーでは状況はもっと複雑だ。相談者は問題をどのように解決すべきなのかがわからないのだ。占星術家にとってのホラリーは、相談者が悩みに対してどのような行動をとるべきか、その方向性に到達できるようにし(イニシアチブをとらせ)、満足できるように問題を解決に導くことである。

これはギリシャの伝統で「カターキー」と呼ばれてきたものである。イニシアチブをとる古代のこの占星術の伝統からホラリーは派生してきたのである。さらにいうと解決策を見出すことは、相談者の深層の欲望を明らかにし、効果的かつ次の手を生み出す駆動力としていくということも含意している。


優れたホラリーの実践においては、占星術師には抱えている問題を”解決”することを助けるようにすることが要求される。このことは、単にイエスノーだけでは済まなかった、リリーの判断例によって見事に例示されている。リリーは相談者に問題に対して自由な選択をさせているのである。このことはジェフリー・コーネリアスによってリリーの「歳をとった男」のホラリー例にたいしての注釈で論じられている。

これは若い女性が「年老いた男」と結婚すべきかどうかを問うたときのものである。(注3) 占星術のチャートはこの女性の抑圧された性的欲望も含めて状況を見事に表示していた。そしてリリーはこのことを明るみに出すような精神分析的介入をしている。

リリーはこの状況の全てを把握していたように見えるが、しかし、宿命論的な予言をすることにはまったく関心を示していない。リリーほど優れた占星術師でなければ、あるいは現代の”伝統派”の占星術師であればこの相談者が結婚するか否か、あるいは少なくとも客観的に見たときにこの女性が結婚したほうがいいかどうか、ということを判断しようとするところだろう。しかし、リリーは自分の占星術が正しいかどうかを証明する必要などなかった。

そして何も予言する必要などはなかったのだ。その代わりに、リリーはこの女性に自身の性的満足と年老いた男の財産との間の葛藤に目を向けさせた上で占星術師が予言しないことをシンボリズムを通して見させることにしたのだ。この素晴らしい例は私が「心理学的ホラリー」と称するものを見事に表していて、リリーがその重要な範例であることを示している。

相談者の欲望をあぶり出すこのような動きはリリーを通じてボナトゥス、さらにアラビアの伝統へと遡ることができる。ボナトウスは判断を下す前の検討事項(コンシダレーション)として、ホラリーチャートを計算し、惑星の動きを考慮するだけでは不十分であるとする。

チャートが解釈できるほど有効(ラディカル)であるためには、相談者が心のそこからの欲望(desire)に動かされて質問をしていることが必要なのだ。判断の基礎となる惑星の動きだけでは、相談者の問を解決するのには十分ではないのである。

「星の動きだけでは十分ではない。その人が真に問いかけていることが必要なのである。」(注4)
この「欲望」Desireという言葉は「星へ」あるいは「星から」de-sireを意味するラテン語から来ていることを考えれば占星術の書物にデザイアーという言葉があまり出てこないのは不思議なくらいだ。この語源に関しては、ジェフリーコーネリアスのラテン語グループにおいて初めて関心が向けられた。

伝統的占星術家たちが、人々をして、「欲望」を通じて星とつなげることができるのか、ということを示そうとしたのである。これこそde-sire、つまり魂の欲望である。ホラリーでは、だからこそ、重要な問題、つまり本人が深く関わっているような問題こそ扱うべきである。

その欲望は質問において最初から明らかなこともあれば、最初は隠されていることもある。しかし、無意識の欲望や願いはシンボリズムを通じて明らかになってゆくのだ。このことはこのジャーナルにおいてジェフリー・コーネリアスによってすでに言及されている。(注5)

「大きな質問」、あるいは「第三者の質問」…例えば王室の結婚問題など…が通常、あまり適切ではないのはそのためである。質問をするときに、本当に大切に感じられないことなどは問うても意味がない。「欲望」を考えない現代のホラリーの文献においては質問の性質、シンボリズムの適切さ、そしてホラリーそのものに内在する倫理的問題について腑分けして考えることが欠けているのである。

 これらのことを念頭において、先のホラリーチャートに戻ってあの「フラット」な相談者を生き生きと動かして、「判断」(ジャッジメント)を「解決」(レゾルーション)へと変えることができるか、検討してみよう。相談者はいずれにせよ、占星術家によって動かされるもの…文字通りにも、隠喩的にも…であるのだから。たしかに「判断」は自信や勇気を与えることもあるが、相談者がより広い文脈での人生の意味を見つけて自分でイニシアチブをとる道を見つけない限り、相談者はホラリーの判断だけで動き出すことはないだろう。

相談者は不動産を買うという申し出を受け入れもせず、また売りに出した部屋を市場からひきあげることもしなかったのだ。彼女の立ち位置は相変わらず「フラット」なもので、出生占星術にもホラリー占星術のシンボリズムがともに示すものである。

以下のことがフラットを支えている鍵となる要因を明らかにし始める。まずは、出生時の木星への重要なプログレッションとこれからくるジュピターリターンである。天秤座にある出生時の第3ハウスの木星はきょうだいを示す。

木星は第5ハウスおよび第8ハウスを支配していてトラインとセクステルによって太陽と土星のオポジションに抜け道を作り出している。私たちが話している間には、きょうだいの存在ははっきり浮かび上がってきた。相談者がイギリスにきたとき、トランジットの天王星が太陽に180度になっていたのだが、印象深いことにその数ヶ月前に彼女の弟は急死していた。

彼女はこのショッキングな出来事を最初のフェステイバルでの出来事で問われるまで「忘れて」いたのであり、突如、彼女が泣いたのはそのことを無意識に思い出したのであろう。
その当時の星の動きでは出生時の第3ハウスが強調されており、これはホラリーでのフラットを示すシグニフィケーターもまた第3ハウスと関わっていることを思い起こさせる。第3ハウスのルーラーである土星はICにあり、ICの副ルーラーである天王星は第3ハウスにあって、フラット(部屋)がきょうだいと不可分なものとしている。

クライアントの涙、そして占星術のアートの両方をかんがみると、フラット(部屋)の問題と彼女の硬直性、平坦さ(フラットさ)は繋がっており、ここには亡くなったきょうだいとの同一化(土星)と乖離(天王星)の問題が横たわっていることがわかってくる。

ある意味で彼女もまた、死んでいたのである。きょうだいの死の時、そして彼女もが家をはなれたとき、トランジットの天王星は太陽にオポジションとなっていた。

その状況から抜け出し、またトラウマを押しやるには容易な時期だったのだ。ただ、そうすることによって、彼女は死とも、両親との複雑な関係からも向き合うことがなかったのである。

彼女と家族の間に大洋と大陸をおいて隔てても、なにも解決はしなかったのだ。母親の望みにしたがって帰郷することは過去の痛みを思い出しそれと向き合うことだけではなく、家族のネットワークそのものとかかわることでもあるのだ。相談者に対しての「申し出」はフラットに関する経済的な問題だけではないのだ。

彼女はいまや自分の閉塞状態から抜け出す可能性を手にしている。中年期の危機である精神的成長と関わる、両親との決定的な対決ができる状況にいるのだ。彼女はきょうだい、母親、そして父親(ICの土星)と向き合う必要があった。こうした人々との関係全てがこの「申し出」の背後にはある。となれば、最初、彼女が申し出を受諾しなかったというのも驚くべきことではない。

私たちはこのことに対して何度も話し合った。そして相談者は、家族と向き合わないことでMC、牡牛座の金星が示すように、居心地のよい状況に安住していること、して牡羊での月と火星の合が示すようにはこの世界の中で動いていない
のだということに気がついたのである。

彼女は何度もこのコンジャンクションを、これまでの恋人、あるいは女友達との間の怒りや暴力性というかたちで経験してきたのだが、自分自身でイニシアチブをとり、自分自身で怒りを表現するということはなかなかできなかったのだ。この出生時の火星とホラリーにおいての牡牛座の火星のコントラストは実に明瞭で、私はこのシンボリズムについて彼女に伝えることができた。

このホラリー相談から1ヶ月もしない間に、以前連絡してきた購入希望者が再度、電話してきた。相談者のフラットがまだあるかと問い合わせてきたのだ。相談者はこのとき、もう占星術には頼らず、ほとんど衝動的にフラットを売ることを即断したのである。

そして、彼女は時間をおかず、このフラットを後にした。それはホラリーによる相談から2ヶ月半でのことだった。ここで金星と火星がどのようにアプライしていたかを思い出そう。

購入希望者は相談者にアプローチした……金星と火星は2度半離れていた。私はこの1度を1ヶ月とみなすのである。また第7ハウスは占星術師も示し、そのルーラーである金星の関わりは私の関与を示しているのかもしれない。

相談者の状況にどのようなことが関わっているのかを示すことで、彼女は自身の欲望(デザイアー)が明るみに出る一助になっていれたらと私は願っている。彼女は「動きたかった」のである。そして、彼女はそうした。

占星術を示す9ハウスのルーラー、月の関わりも占星術が、彼女が自分のイニシアチブを見出すことを助けたことを示している。結果、魚座の月が天王星とセクステルが示すように、相談者は引っ越しをした。そしてかつて自分からきりはなした、家族と関わる感情のもつれと再度、つながりをもつことにしたのだ。

フラットから離れて自由になることで、彼女は部屋を借り入れそこに移った数ヶ月後、彼女が私の目の前に現れたとき、彼女の見かけの変わりように驚かされた。

彼女は髪をばっさりと切って赤く染め、ツンツンにジェルで固めていたのだ!挨拶を少しした後、すぐに私は彼女が帰郷することにきめたことを知らされた。彼女は、出生の牡羊座の月と火星の合、それが天王星とトラインの示すように母から解放され、自分自身のつよさをひきだすことにしたのだ。

これはまさにツンツンだった赤い髪(牡羊座の月と火星)ではないか。これは創造的な独立(獅子座の天王星)を得るために母親と対決する(月と火星)決意をした。

ほどなく、出生の金星は木星にトラインになる。相談者はフラットを離れ仕事を辞めて故郷に戻る。あらゆる意味において、彼女は「帰郷」しようとしていたのである。


アニマ・ムンディ(世界霊魂)


このような議論を見ていただき、ホラリーチャートが正確なシンボリズムを表示することがあったとしても、それは必ずしも予言的、ないし決定論的であるとは限らないということをご理解いただけたであろうか。リリーをはじめ、ホラリーの伝統全般が示しているのは、優れたホラリーの実践は私たちを「宿命づけられた」立ち位置に置くようなものではないのである。

チャートのパーフェクション(ここでは金星と火星のセクステル、月と天王星のセクステル)は相談者の状況、つまり不動産を買い取りたいという申し出を受諾することが意味することを明らかにしているのである。

しかし、惑星の運行は相談者が従わなければならない先の行動コースを示しているのではない。彼女は惑星ではないし、彼女はあらかじめ決められている惑星軌道に埋め込まれているわけでもない。

占星術のシンボリズムをめぐる議論を通じて、彼女の本当の願いがより明らかになり、本人の動機に光が当てられてきた。そのことを通して占星術が彼女の魂を星へ立ち返らせ、本人の欲望、de-sire,に従うことができるようにしたのである。

魂の欲望は20世紀中ずっと精神分析の関心事であった。そして近年にはその内実により深い洞察が加えられるようにもなってきた。心理療法畑出身で、また実践者でもあるジェイムズ・ヒルマンは近代の「自己」心理学、自己成長、そして人間性運動への強烈な批判者でもある。

ヒルマンは主観と客観の分裂、心と世界、内面と外面の分断というカント的世界観を依然として保持しているとして精神分析を批判している。ヒルマンは「内的」存在などというものは精神分析によって広められた神話の一つだとして、その観念や有効性を批判するのである。

「内的存在」という概念が、個人をカウンセリングルームの私的空間に引きこもらせ、実際的な政治的な活動への参加に関わらせなくなってしまうのだという。しかし、世界は魂をもっている(アニメイテッド)のであり、今の環境問題という葛藤において「反論」し始めている。

「世界から魂を抜き去り、この世界に魂があることを無視してしまうことで、精神分析はその仕事をもはやできなくなってしまっています。

建物は病んでいます。組織も病んでいます。銀行のシステムも病んでいます、学校も、この街も…病は外のどこかにあるのです。
…内的な魂ばかりを強調し、外側の魂に目を塞ぐことで セラピーは実際の世界を衰退させるのに手を貸してもいます」(注6)

ヒルマンはアニマ・ムンディ、世界霊魂という古代の着想を蘇らせる。そこでは世界と心は相互に浸透しており、主観と客観の分裂など考えることもできないのだ。同じカント的分断は占星術においても見出すことができる。

それは外界に特権的立場を与える伝統的占星術と内的世界に重きをおく心理学的占星術の分断である。この分裂については別のところでも論じたし、さらに包括的には『ユングと占星術』 で書いた、傘の例を関心のある読者にはおすすめしたい。(注7)

これはある男性が買い物中に出会った女性との出会いがいかに彼の魂のイメージ、あるいはアニマとの出会いでもあったかを示すものである。

アニマは男性の「内」にいるのではなく、世界「として」現れた。そしてこの出会いのホロスコープが世界と心をともに示していたのである。

同じ問題が先に議論していたこの女性と彼女のフラット(アパート)についても言える。魂の欲望(デザイアー)はこの世界の「うちに」見出すことができるのだ。この女性のフラットはすなわちこの女性のかかえる内的なフラットな状態そのものでもあった。

占星術家にとっては世界と心の間には決定的な境界線はないのである。彼女が実際に住んでいるところは彼女の存在の家でもある。そう考えると、彼女が自分を動かし出すために、まさに彼女のフラットを売ることになったのだといえる。

だとしたら、最初に私がフラットを売るのは現実的ではないと考えたのは正しくなかったことになる。

彼女は「最初には」決断をすることはできなかった。それは「内的」な心が望んでいることを意識できなかったからだ。というのも彼女の心は現実の部屋、フラットというかたちで「外的」なものとしてこれまでずっと現れていたのだから。

占星術という言語が美しいのは、照応の理論によって上のようなことをきちんと示しているからだ。

照応の理論は占星術実践の中に深く根付いているために占星術家は象徴がこのような多層的な表れをすることを当然のものとしているし、象徴が主観と客観の分裂をやすやすと架橋しても驚かない。

牡牛座の木星は経済の拡大も、貪欲な象も、資本家のヴィジョンも、太った僧も、大きな樹も、裕福な法律家も、倫理的価値観もすべて同じシンボルとして表現できる。同じ象徴が以上の上の一つを示すかも知れないし、またそのほかの何百とある可能性の一つかも知れないし、あるいはそのうちのいくつかを同時に表すこともあり得るのだ。

これはホラリー占星術家と心理占星術家共通の言語であり、われわれの共通の伝統の基盤なのだ。

しかし、それにもかかわらず、ホラリー占星術家は心理学的占星術をまるで実体もなく漠然と内的世界の周囲を堂々巡りしているだけで、つまるところ生々しいこの現実世界を蔑んでいるとみなしている。

一方で心理占星術家からすると、ホラリー占星術家はかつてアシュモールが言ったように「ホラリー質問のいくつかの専門用語をがあがあわめいているだけ」に過ぎないように見える。(注8)

占星術家がイエスかノーか、引き受けるかどうか、大丈夫というか話すか、という丁か半かの当て物ゲームに興じているように見えてしまうのである。しかし、この二つが揃わないと心理占星術にもホラリーも空疎なものになってしまう。コンサルテーションのときのチャートは、この二つのアプローチを統合するひとつの方法となるだろう。(注9)

心理学的ホラリーはこの二つが出会う中心的な場になると私は信じる。そしてもし天王星と海王星の合が占星術の「内部」で何か意味することがあるとするなら、私たちが私たちの伝統を大胆に見直すことではないかと思うのである。


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1. Patrick Curry A Confusion of Prophets (Collins & Brown,1992)
2.William Lilly Christian Astrology (Regulus facsimile edn.1985)frontpeice
3.Geoffrey Cornelius The Gentlewoman and the Aged Man Company of Astrologers Bulletin No.3 またMoment of Astrology Chap8
4.Guido Bonatus The Astrologers Guide(1676, reprinted Regulus 1986)p1
5 Geoffrey Cornelius Horrible Horaries Astrological Association Journal May/June 1989(Letters)
6.James Hillman and Michael Ventura We have had a hundred years of Psychotherapy ---and The World is Getting Worse (Haper San Francisco,1993) P3,P5
7.マギー・ハイド『ユングと占星術』(青土社 第6章)
8.Elias Ashmole Theatrum Chemicum Brittannicum (1652) quated by Geoffrey Cornelius in Moment of Astrology op.cit AppendexV
9.Adrian Duncun Doing Time on Planet Earth (Element,1990)


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